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仲田、古川、九鬼、和田…女子硬式野球ピッチャーの私が励まされたホークス選手の言葉

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/09/16
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 文春野球コラム、現行システムでは最後の登板になるかもしれないので、今の“想い”を綴らせて頂きたい。

 何が言いたいかと言うと、『私はホークスに励まされ、ホークスに生かされている』ということだ。自分が落ち込んだ時、立ち上がるキッカケをくれるのはいつだってホークスだった。

 まず、僭越ながら、私の話をさせて頂きたい。

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 私は女子硬式野球のクラブチームで投手としてプレーしている。今季が入団2年目のシーズンだが、私の野球歴自体も2年目。大人になって、30歳を超えてから初めての硬式野球に挑戦中という珍しいタイプだ。だから、当然ではあるが、子どもの頃から野球をしてきたチームメイトと比べて実力も経験もない。

 その上、チームはクラブチーム日本一を目指していて、昨年は2位、今年は3位と奮闘している。日本代表も3人いる。言うなれば、そんな“ガチチーム”に素人が紛れ込んだと言っても過言ではない。私自身、トライアウトの時点で「とんでもない世界に来てしまった」と思ったが、何の間違いか、合格した。入団していいものか悩んだが、ずっと野球をやってみたかったし、悔いのない人生にしたかった。せっかく合格したのだから「やってみよう」と思い切った。

 私は2016年からホークスの取材活動を続けているが、毎日選手たちの頑張る姿に刺激を受けてきた。そんな彼らを見て「私ももっと本気で何かに挑戦したい」と思っていたので、最終的には若鷹軍団に背中を押されたのだった。

 人生で初めて“野球部員”になって、今まで見えなかったものが見えたり、初めて知ることもたくさんあって、刺激的な日々が訪れた。プレーヤーになることは、取材活動にも生きているように感じる。見える世界は変わった。

 一方で、たくさんの壁にぶち当たってきた。もちろん、一番下手なのは分かっているけど、出来ないことだらけ、試合に出られない、下手くそで練習したいのに体力がまだ足りてない、仕事との両立も簡単ではない……。野球ができる喜びを感じながらも、毎日悔しい気持ちでいっぱいだった。でも、いつもホークスが励みになって、突っ走って来られた。単純かもしれないけれど、取材で聞く選手の生の言葉たちに何度も奮い立たされた。自分も現役選手をしながら、現役プロ野球選手に話を聞けるというのは貴重過ぎることだし、今自分にしかできない経験なので、全身で体感してきたことを大切に綴りたいと思い、今回のようなコラムを書こうと決意した。

九州ハニーズというクラブチームでピッチャーをしています ©上杉あずさ

自分を見直すキッカケになった仲田選手の言葉

 中でも、仲田慶介外野手の姿は自分の教本にしているほど刺激を受けている。以前も仲田選手のコラムで取り上げたことがあるが、彼は育成14位入団、2021年ドラフトで全体の128番目、最下位指名を受けてプロの世界に飛び込んだ。あるスカウトが「仲田の能力は正直普通よ。でも、あの努力は只者じゃないんだ」と言っていた。ある種、スカウトも仲田選手に夢を見たかったのだろう。それほどの“努力の天才”だ。ただ、素人目にはそんなに能力が“普通”だとは感じないし、いつもプレーを見て凄いなと思っていた。

 けれど、ホークスの同僚たちは「仲田さんドンくさ過ぎる」とか「仲田って本当にアホなんすよ」と言っていた。大学時代はベンチからグラウンドに出る所の段差に躓いて転んで全治2ヶ月程のケガをしたらしい。映画「君の名は。」を観て、話の内容が理解できなくて、後日、仲良しの増田珠選手に解説してもらったらしい。

 私も平地で転んで捻挫したことがあるし、「君の名は。」も1回で理解できなかった。親近感を感じずにはいられなかった。その仲田選手が、圧倒的練習量でプロ入りの夢を掴み、2軍のレギュラーになり、支配下登録まであと少しの所まで来ている。いつ取材をしても、進化するためにあらゆるアプローチをしている。どれだけ失敗して怒られても、シュンとする暇はなく、また練習。常に進み続けている。勇気を貰わないわけがない。

 私の場合、落ち込んだ時、言葉では前向きなことを言っていても、心の中のモヤモヤがすぐ解消できないことも多々ある。でも、悩む度に「仲田選手だったらもう切り替えて練習してるよな」と思うようになり、凹み期は短くなってきた。

 1つ大きな悩みがある。自分としては野球に本気で向き合っているとはいえ、野球は団体スポーツ。みんな仕事をしながら、平日の午前中や土日の貴重な時間を使って練習している。日本一を目指すチームにとって、1分1秒も無駄には出来ない。だから、私がシート打撃や打撃投手で投げるとき、「下手くそに費やす時間は勿体ないのではないか」とどうしても気にしてしまう。大前提として、そんなことを言うような選手はいないし、みんな素敵な人たちばかりだ。だけど、レベルの差を痛感し、気を遣いすぎる私は、どうしてもネガティブに考えてしまうことがある。「私って邪魔なのかな」と。

 下手くそほど練習しなければならないけど、迷惑をかけると思うと「ノック打ってください」「ブルペンで受けてもらえませんか」が言えなくなる。だから、不完全燃焼のまま帰ることもあったし、帰って夫に練習相手をしてもらったり、自分でジムに行ったりした。もっと練習したいけど、迷惑はかけたくない。そう悩んでいる時、仲田選手のある言葉が思い出された。「自分、がめついんですよ」。初めてそう聞いた時、意外だった。めちゃくちゃ謙虚だし、人見知りで口数も多くはない仲田選手からの「がめつい」発言。聞くと、「野球のことになると、がめついんです」と言う。野球は一人ではできない練習も多い。居残り練習でノックを打ってもらったり、バッピをしてもらったり、先輩に質問したり。野球に関しては遠慮なくガツガツお願いしてきたそうだ。

 ハッとした。多少の迷惑は覚悟で、がめついくらいのガツガツ感がないとやっていけないよな、と。何のために野球をやっているのか。誰にどう思われても、自分の夢に向かって突き進む“図太さ”が私には足りないのかもしれない。今一度自分を見直すキッカケになった。

私の“教本”でもある仲田選手 ©上杉あずさ
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