「元本割れしない」の嘘
じつは、山口さんはこれより前から、飯沼氏に不信感を抱いていた。「年金共済」でも、不利益を被る契約をさせられていたからだ。
約10年前、飯沼氏から年金共済を勧められたが、山口さんは契約するつもりはなかった。すると飯沼氏はこう言ったという。
「貯金と同じで、いつでも解約して引き下ろせるし、元本割れはしない。契約期間は5年で、月2万円払うだけでもいいので」
それに対して山口さんは「給与からの天引きで財形貯蓄をしている他に、奨学金の返済もあるので、とてもできません」と断った。しかし、飯沼氏は「それなら、月1万円だけでも」と食い下がる。父の同僚であるうえ、近所に住んでいることもあり、関係性が拗れるのを恐れて、無下には断りにくかった。山口さんは止む無く、あらためて元本割れしないことを飯沼氏に確認したうえで、月1万円の掛け金で契約している。
だが、この説明も嘘だったのだ。
その5年後、山口さんが年金共済を解約しようと飯沼氏に相談したところ、「契約後11年が経たないうちに解約すると、元本割れしてしまう」と言われたのだ。当初の話と違うので、山口さんが問い詰めると、飯沼氏は「自分の勉強不足でした。ごめんなさい」とあっさり謝罪したという。
だが、すぐさまこう付け加えたという。
「あと何年かしたら元本割れしないから、契約を続けてくれないか」
謝罪をした舌の根の乾かぬうちに、契約の継続を頼み込む飯沼氏の態度に山口さんは呆れ果てた。「JA職員にとって、大事なのは顧客ではなく自分の実績なんだと、はっきり感じた」という。ただ、この時も、父の同僚である手前、それ以上は強く追及できなかった。
飯沼氏の説明で不審な点は他にいくつもあった。
一つは、そもそも年金共済の契約時にその内容を記した「共済設計書」を渡されていなかったことだ。山口さんがJAに年金共済の解約を申し出たときに、初めてその文書の存在を知り、受け取った。それを読んで、自分には不利な契約内容になっていたことに衝撃を受けたという。これは、終身共済についても同様である。
「不利益を被る契約内容であることがバレないように、飯沼さんはあえて私に設計書を渡していなかったとしか思えない。そうであれば、とても悪質です。もちろん、契約者である私がきちんと把握していなかったことに責任はあるのですが……」(山口さん)
北部九州のJAに今回の事例について問うと「そのような事実は把握しておりません。なお、今後そうした事実が判明した場合には、適切に対応してまいります」とのみ回答が返ってきた。
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窪田新之介氏による「信頼するJA職員の説明は嘘だった」全文は、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。