悩みを抱えている生徒がいれば、私はあなたたちのために何でもします。私は担任の教師ですから。
初回のスタート直後に、三年D組の教師、九条里奈(松岡茉優)の口から発せられるこの言葉に、ドラマの核心、要点などすべてが込められている。
凄惨な暴力と、陰湿なイジメ。そんな最悪の教室に心を痛めながらも、里奈は生徒に積極的に寄り添うことなく、この一年間をなんとかやり過してきた。
なのに卒業式の日、上階の渡り廊下から何者かに突き落とされ転落死する。犯人である生徒の制服にはD組と記されたリボンが。
地上に激突した里奈は、その直後に一年前の始業式の日に戻っていた。
転生したら〇〇になっていた。そうした安直なファンタジイやSFもどきの転生譚にはうんざりしていたが、一年前に戻った里奈が、静かな覚悟を決めた声で、生徒のためなら何でもすると宣言したとき、スタッフの覚悟も伝わった。
イジメの標的にされていた鵜久森叶(うぐもりかなう/芦田愛菜)を救うため、里奈はクラスの生徒からどんなことをされたか問う。ポツリポツリ辛い日々を語る鵜久森の言葉が圧巻の一語。彼女も里奈を信じ覚悟を決めたのだ。
夏ドラの中でも、この作品の熱量は他を圧している。年に何作かは『エルピス』級の攻めてるドラマが観たいよね。
相楽琉偉(加藤清史郎)とその取り巻きが暴力支配していた教室も、里奈の命を賭けた行動で、徐々に造反者が増える。貧困、シカト、居場所のなさ。そんな弱みを相楽たちに握られて恐怖を肥大化させた生徒たちが、こんな悩みぐらいで、あの連中に楽しさを奪われないぞと覚醒する。
里奈のように腹を括った教師が、学園に一人でもいれば。教頭(荒川良々)の無責任なナアナア主義。教育委員会も自己保身ばかりで、生徒が死んでも真相は隠蔽するばかり。
このインチキな学園をぶち壊すには、覚悟を決めて闘うしかない。
里奈が二周目を生きていることに、鵜久森は気づいた。彼女はイジメから不登校になり、一周目では自ら命を絶った。
里奈と鵜久森は、なぜ二周目を生きているのか。それは私たちがやり残した事が多いために不遇な死を迎えたから、もう一度、やり直す機会を与えられたのかもと二人は思う。
しかし謎は残る。二人は三周目はないと確信する。しかしその矢先に鵜久森は以前の里奈と同様に転落死させられる。里奈の願いが通じ三回目が訪れないか。そして他に二回目を生きる生徒はいるのか。勇気ある教師がいない国で、たった一人の女性教師の反乱が、教室と学園をひっくり返す。そんな可能性を夢みさせてくれるドラマに一票。
INFORMATION
『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』
日本テレビ系 土 22時~
https://www.ntv.co.jp/saikyo/