また、その上で個人個人が役割を果たすことも大切です。NTTの仕事で言えば、営業の窓口になっている私が誠実な態度でお客さんに接していなければ、信頼を失い、会社の看板に泥を塗ることになってしまいます。慶應義塾高校野球部に置き換えても、選手一人ひとりがその責任を感じなければいけません。例えば、行き帰りの電車の中での態度などを周囲の人々はよく見ています。もし気が緩み、迷惑をかける行為や不快にさせる態度を取ってしまえば、それがその部員一人のことであっても、組織全体の評価が下がるということです。その自覚を強める意味でも、このことは頻繁に選手に伝えるようにしています。
選手を大人として扱う
監督と選手の間に上下関係はありません。監督は最終決定をする責任者という立場ではありますが、私は選手に対して一緒にチームを作っていく仲間や同志であるという意識を強く持っていて、いざというときに本音で話せるように普段からきちんとコミュニケーションを図るようにしています。たまたま私のほうが早く生まれただけであって、いま一生懸命頑張っているのは選手であり、私自身が偉いわけでもなんでもありません。私の指示通りにやれば甲子園で優勝できるとはまったく思いませんし、むしろ選手には「甲子園に連れていってくれ」といつも言っています。そのために私も努力しますし、選手もそれぞれの立場で努力し、チームに対して献身的でなければいけません。一人ひとりが役割の中で活躍を果たし、チームを良い方向へと導いていく。そのことを私は大切にしています。
すると、当たり前ですが、選手に対して一人の人間として接することができるようになります。高校生は大人に十分に近い部分がたくさんあるので、一人ひとりが意見や考えを持てるようにするためには、選手をきちんと尊重して、意見や考えを口にできる環境を作っていかなければいけません。
そのために普段から意識して行っていることが、選手への“問いかけ”です。
「考える」「意見をもつ」「理解する」は、スポーツの本来あるべき姿
「どう思っている?」「どうしたいの?」「なぜ、いまはそのプレーを選択したの?」など、プレーの結果を褒めたり、叱ったりするのではなく、意図を聞きます。「それはダメだ!」や「これはこうしろ!」と言っても、選手の心には本当の意味では響きません。結局のところ、自分自身で気付くのがもっとも大切です。そのためにはやはり本人がプレーに対して意図を持っていなければいけませんし、聞かれたときには答えられるように、普段からしっかりと考えていなければいけません。普段の思考とプレーの意図は直結しますから、“問いかけ”は指導者として必須の行動です。