1ページ目から読む
4/4ページ目

 これとは逆に、選手のミスに対して、「バカ野郎! そうじゃねえんだよ!」と指導者が叱責すれば、選手は「はい!」と答えるでしょうが、失敗の原因を自分の頭で考えず、理解しないままなので、恐らくまた同じ失敗を犯します。

 考える。意見をもつ。理解する。スポーツはこうした作業を頭の中で繰り返していくことが、本来あるべき姿です。スポーツは、体を動かすとともに大変高度な知的作業でもあるのです。

驚くような提案をしてきてくれることも

「いまのは振り遅れた。次のストライクに備えて、バットを短く持とう」「もう少し打席の後ろに立とうかな」「いや、少しだけポイントを前に設定して振ってみようかな」

ADVERTISEMENT

 野球は一球と一球の間に約15秒の“間”がある競技ですから、その“間”を使って、このようにしっかりと考えなければいけません。9回まで想定すれば両チーム合計で300球近くになりますから、頭を働かせたか否かの違いは当然、大きなものになります。

 投手はボールを持って主体的にやることができますが、それ以外の野手や打者は基本的に受け身のため、ほとんどが待っている時間、考える時間です。その時間をどう生かすかということが勝負。技術や体力に圧倒的な差があれば話は別ですが、力が拮抗している場合は、冷静に頭を働かせているほうに天秤が傾くのは当然です。このことは常に、選手に伝え続けています。

©AFLO

 選手を大人扱いしているからこそ、こちらが驚くような提案をしてきてくれることもあります。2019年度に卒業した吉田豊博は、手術を余儀なくされるほどの故障を肘に抱えて、最後のシーズンはプレーを断念したにもかかわらず、野球やチームへの気持ちを途切らせることなく、ある方法でチームに貢献しようとしました。

 その方法とは、さまざまなデータをより細かく分析していくセイバーメトリクスです。

プレーで貢献できない分、分析的な視点でチームに貢献

 彼が2年生の冬、A4用紙20枚ほどのレポートを持って、私のところにやって来ました。聞けば、夏から秋にかけてのすべての練習試合のスコアブックなどを見直して集計し、打率や防御率といった一般的な数値ではなく、セイバーメトリクスのOPS(打撃での貢献度)などの非常に細かい指標をすべて算出してきたというのです。こちらが頼んだわけではなく、それにもかかわらず感動するほど精密なもので、大変に驚きました。数値や成績ばかりでなく、理想の打順や、投手のタイプ別診断といったところまで内容は多岐にわたり、大学生でも簡単には作れないようなレベルのものでした。

 理由を聞けば、もともと野球を分析的に見たり、数字で考えるのが好きなタイプで、それを自分が所属するチームで試してみたかったそうです。またプレーで貢献できない分こうした分析的な視点でチームを見ることで貢献しようと考えたようでした。

 実際、春先には彼と相談しながら、さまざまな打順や継投を試してみました。結果としては日本一という目標には結びつきませんでしたが、吉田の主体性、行動力にはチーム全員が本当に勇気付けられました。