1ページ目から読む
2/5ページ目

牧野富太郎をモデルにした理由は

 企画の最初の段階では、スタッフ同士のディスカッションで様々なアイデアが出たという。「日本植物学の父・牧野富太郎氏をモデルに」という案はその中のひとつで、長田氏が持ち込んで強く希望し、最終的にこの案に決まったのだという。なぜこのテーマで書きたいと思ったのだろうか。

牧野富太郎 ©時事通信社

「牧野富太郎さんという草花を一生涯愛した人物が、人を集めて関係性を構築し、ネットワークを広げていく。その『広場』としての機能がすごく有効だと思ったからです。植物に人生を捧げるという『一直線』は、主人公の人生としてはすごくシンプルですけれど、植物をフィールドとすると、何を呼び込んでも大丈夫だろうな、という感覚がありました。

 懐が深く、間口が広いのが、『植物』というテーマの魅力でした。あらゆる人、こと、ものに結びつけることができるんですね。半年間の朝ドラを書くという作業は、『後半に書くことがなくなるんじゃないか』という恐怖と常に隣り合わせではあったんですが、最後まで書きたいことが絶えなかったのは、ひとえに何でも呼び込むことができる『植物』というテーマだったからだと思います」

ADVERTISEMENT

語り部としての「植物」

『らんまん』というドラマはどのエピソードをとっても、登場人物たちの人生や生き様が「植物」という主題と絶妙に絡み合っている。植物が人間を寓意しているともとれるし、人間とて植物と同じ自然界の一要素なのだと解釈することもできる。また、植物が「語り部」として観る者を物語の世界にいざなっているようでもある。こうした作劇も、やはり主題の「間口の広さ」ゆえなのだろうか。長田氏は語る。

「何でも呼び込めるからこそ、すべて呼び込もうと思いました。時代における問題点や、男女の価値観、身分差、それから、諸外国と日本の関係性であったり。植物という、地面に根差したものをキーアイテムにするからこそ、そこからどんな層も、どんな事象も見渡すことができる。マルチな視点のとり方ができるだろうな、という期待がありました。

 固い種から芽吹いて、重い地面を突き破り、花を咲かせて、葉を落として、最後に種を残して、次の世代へとつないでいく……というライフスタイルが、もともと植物には備わっている。命の始まりから終わりまでが、すべて内包されているんですよね。だから、それが時代にも当てはまるし、人の一生にも当てはまる。万太郎も周りの人物も、植物と同じで、絶えず『変化』を続けています。その人自身の変化、関係性の変化。それらを、植物ごしに見つめながら描いています」