サブタイトルへの強いこだわり
毎週のサブタイトルである植物の名前も、この物語を彩る大事な要素だ。筆者が本作の制作統括・松川博敬氏にインタビューした際、「毎週サブタイトルを植物の名前で縛るとなると、かなり大変な作業になってくるのではないか」と懸念したと語っていたが、何としても植物の名前で通したいという、長田氏の強いこだわりがあったようだ。
「万太郎が生涯をかけて植物図鑑を作る物語なので、最終回まで見終えてすべてを見渡したときに、週タイトルも含めて植物図鑑のようになっているといいな、と思ったんです。『らんまん』は植物学者の物語ですが、植物を発見するだけの話にすると、その時点で植物に興味がない視聴者は飽きてしまう。植物と人間を結びつけていくという構想は、企画のかなり初期の段階からありました。サブタイトルのつけ方には、大きく分けて3通りあります。
(1)人間と結びつく植物
第1週の『バイカオウレン』は、母・ヒサ(広末涼子)との思い出であり、万太郎の原点。このあとのどこかの週で登場する『スエコザサ』は、愛妻・寿恵子(浜辺美波)への感謝の気持ちを表した植物です。また、キャラクターを象徴するというやり方もありました。第5週の『キツネノカミソリ』は、万太郎と綾(佐久間由依)に『自由』を教えた活動家・早川逸馬(宮野真守)の魂のように、燃えるような朱色。こうした、人との出会いを印象的に彩る役割としても植物を使っています。
(2)業績を表した植物
万太郎の業績となる植物を、そのままサブタイトルに持ってきた週も数多くありました。第15週『ヤマトグサ』、第16週『コオロギラン』、第17週『ムジナモ』など、中盤の業績ラッシュではこのパターンが続きました。こうした“物理的”なサブタイトルがつく週は、その代わりに人間関係の綾で、その週のテーマに到達するように心がけました。業績自体がメインではなく、人間関係を描ききったうえでの、最後にもたらされるものとして、植物を機能させたかったので。
(3)自由度の高い植物
私が『こういう文脈で使いたい』というのがはっきりしていて、『文脈に合うもので、今用意できるものは何ですか?』というオーダーを、植物チームにお願いするパターン。たとえば、愛娘の園子が夭折してしまう第18週の『ヒメスミレ』は、
・小さな子どもの目線の範囲に咲く花
・長屋の中庭にも自然に咲くようなもの
・人々にとって身近な花
という条件を満たし、なおかつ、撮影の時期に用意できるものということで、候補に挙がった中からチョイスさせていただきました。