連続テレビ小説『らんまん』(NHK総合)が放送期間残り3週間となり、ラストスパートへと向かう。幼い日から変わらぬ草花への愛を貫き、植物学に献身した主人公・万太郎(神木隆之介)が最後に辿り着くのは、どんな境地なのだろうか。
「わし、とびっきりの才があるがよ。植物が好き。本が好き。植物の絵を描くがも好き。『好き』ゆう才が」
第5週「キツネノカミソリ」23話で、万太郎が故郷の高知・佐川から東京へ出て植物学を極めたいと祖母のタキ(松坂慶子)に願い出るときに語ったこの台詞は、学者の何たるか、天才の何たるかを見事に言い表していた。一心不乱に何かが「好き」。寝食を忘れるほどに何かが「好き」。「好きこそ物の上手なれ」と言うは易しだが、自分の全人生を賭けて何かを「好き」でい続けるというのは、誰でもできることではない。そして、この「とびっきりの才」こそが“求道者”の条件ではないだろうか。
「『好き』の天才」は人の心を動かし、人を集める。筆者は、『らんまん』の脚本を手がけた長田育恵氏にも、同じような印象を抱いた。「物語を考えること、登場人物を生み出して、その行方を考えることが、とにかく好き」と語る長田氏。彼女が紡ぐ物語を5カ月間見てきて、ひしひしと感じるのは、万太郎の「植物愛」に勝るとも劣らぬ、「物語愛」があるということだ。企画の立ち上げから含めれば制作期間におよそ2年。長きにわたる執筆を終えた長田氏に、『らんまん』に込めた思いを聞いた。
「130話のドラマは未知の世界」
舞台演劇やミュージカルの戯曲で数々の名誉ある賞を受賞し、評伝劇に定評のある長田氏。2016年からはテレビドラマの脚本も手がけ、連続ドラマの単独執筆は、『すぐ死ぬんだから』(2020年/NHK BSプレミアム)、『旅屋おかえり』シリーズ(2022年・2023年/NHK BSプレミアム)に次いで、『らんまん』で3作目となる。朝ドラのオファーが来たときの心境はどんなものだったのだろうか。長田氏はふり返る。
「7年前からテレビドラマを書き始めて、書くからにはいつかは『朝ドラ』を書いてみたいという夢がありました。でも、ただの夢ですよね。だから、最初にお話をいただいたときは驚きと喜びがとても大きい反面、とてつもない重圧でした。連続ドラマでは5話までしか書いたことのない私にとって、130話のドラマというのはまったく未知の世界でした。
毎日15分×半年間という長丁場の朝ドラは、『人の暮らしと共にある番組』であるという思いが強くありました。ひとつのテーマ、ひとりの人物を、こんなにも長い時間をかけて、ていねいに追っていける『枠』はほかにありません。書き手として本当に幸せで、貴重な機会をいただきました」