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「あなたは毒を盛られたかもしれない」と医師が診断…戦争報道に取り組む、ロシア人女性記者を襲った「体の異変」

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警察での取り調べ

 警官たちは私に対して意地悪だった。彼らはそれを表には出さなかったけれど、3回目の事情聴取の後に喋り出した。上級捜査官は、2019年にティアガルテン公園で射殺されたチェチェンの元独立派司令官ゼリムカン・カンゴシュヴィリの殺人事件を捜査した人だった。犯人はすぐに捕まった――目撃者とビデオカメラのおかげだった。パスポートの名義はワジム・ソコロフとなっていたが、ジャーナリストと警察が、彼の本名はワジム・クラシコフであり、ロシア連邦保安庁とつながっていることを確認した。彼は「ロシアの治安組織で、ロシア政府の指示により」殺人を犯したとして、ドイツで終身刑を言い渡された。裁判官はこの事件を「国家的テロ」と呼んだ。2022年にロシアはクラシコフを二度も囚人交換リストに入れたが、ドイツはこれを拒んだ。

 この同じ捜査官は1年前には、「メディアゾーン」(※ロシアの独立系メディア)の出版人でプッシー・ライオットのメンバーのピョートル・ヴェルジロフの毒殺事件を捜査していた。ヴェルジロフはせん妄状態で痙攣しながら、モスクワからプライベート機でシャリテ病院に搬送された。ベルリンではすでにヴェルジロフの友人たちが、病院が監視下にあることに気づいていた。警察はヴェルジロフを保護し、捜査を開始した。「しかし何も立証できなかった。毒物の特定すらできなかった」「なぜですか?」「ラボで『この人物は毒を投与されたのか』と問うことはできないからだ」。「『体内組織中にこのような物質はあるか』と問うことならできる。だが、その手の物質は何千とある。だからこの殺害方法は人気なのだ」。

「なぜ警察に来るのがこんなに遅くなったのか理解できませんね。電車の中で気分が悪くなったときにすぐに警察に電話すべきだったでしょう。我々が駅まで迎えに行ったのに」

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「でも私は、これが毒物投与だとは思っていなかったんです。今でも信じられません」

「どうして思わなかったの?」

「そんなことを考えるなんて変だったし。それに私はヨーロッパにいるのだし」

「だから?」

「自分は安全だと感じていたんです」

「ほら、それが腹立たしいんだよ」と捜査官は言った。「あんたたちはここに来ると休暇中だと思っている。ここを楽園かなんかだとね。自分の身を守らなきゃならないとは誰も思っちゃいない。ここでだって政治的な殺人事件はいくつもある。ロシアの特殊機関も活動している。あんたやあんたの同僚たちの暢気さは話にならんね」。

 警察の捜査の過程については私には教えてもらえなかった。

捜査の打ち切り、そして再捜査

 4月2日の記者会見で、「The Insider」(※ロシアの独立系メディア)の編集長ロマン・ドブロホトフが私に近づいてきた。私を脇に連れていくと、「レーナ(※エレーナの愛称)、君に個人的な質問がある。でもその前に話しておくことがある。私と『Bellingcat』(※オランダに拠点を置く調査報道集団)のフリスト・グロゼフが今、ヨーロッパでの一連の服毒事件を調査している。犠牲者はロシアの女性ジャーナリストたちだ。君に聞きたかったんだ。君はかなり長いこと、何も書いていないようだけど健康状態のせいなのか?」

 それで私は、今あなたがたに話していることを彼に打ち明けた。