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 次に何が起きるかが全く読めないハラハラ展開が続くが決してシリアスなわけではなく、雄大なモンゴルの砂漠をスーツ+革靴で歩く姿や、警察犬をまくために民家の肥溜めに隠れるなど、コミカルなシーンも忘れない。

 視聴者が「志村、後ろ後ろ!」と叫びたくなるドリフのコントのようなシーンがシリアスな展開の合間に差し込まれ、カーチェイスや警察がズラリと並ぶ絵柄は『西部警察』シリーズを思い出させるような「野暮ったいけれど豪快で気持ちがいい」仕上がりになっている。

 ギャグとアクション、スリルのバランスがとにかくいいのだ。

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 そして『VIVANT』が特異なのは、まったく親近感もわかない遠くの世界の壮大な物語を、贅沢なビジュアルで示していることだ。近年はコストの問題や共感を求める視聴者に向けた作りのドラマが多い中で、『VIVANT』の異質さは際立っている。

 ストーリーも、近年増えている“考察ドラマ”のように視聴者の裏をかくことを狙っている雰囲気は感じられない。

堺雅人 ©文藝春秋

 堺雅人は8月13日放送の『日曜日の初耳学』(TBS系)に出演した際、『VIVANT』について「推敲の整った文章ばかり見ていると、ゴツゴツした第一稿が見たくなるというか」と語っていた。この粗削りでいて大らかな雰囲気は『VIVANT』の心地よさをよく表していると思う。

「彫りが深いので実は外国人設定ではないか」と邪推された阿部寛

『VIVANT』の成功に、“愛されキャラクター”たちの力が大きく影響していることも間違いない。

 筆頭は、まあるい笑顔で有能すぎる富栄ドラム演じる「ドラム」の愛おしさ。堺雅人の国外脱出を助ける阿部寛のために、偵察、食料調達、救出など全方位で活躍する頼もしさの一方で、翻訳アプリを使ってコミュニケーションをとるアンバランスさのギャップにファンが続出。

中央が富栄ドラム(TBSのHPより)

 阿部寛のキャスティングも、「彫りが深いので実は外国人設定ではないか」という視聴者の邪推を狙ったものだとすればあまりにも適役だ。有能なようでころっと騙され、それでも「勘のいい男」と警戒される絶妙な立ち位置も愛おしい。

 また、松坂桃李の“気の毒さ”も利いている。満を持してカッコよく登場したはずがいつの間にか洗濯をしたり果物をむいたりする家事担当に収まり、挙句の果てには堺雅人に騙されてしまう。

 モンゴル人俳優のバルサラハガバ・バタボルドも当初は執念深い強敵、後に頼もしいパートナーになるチンギス役を好演している。堺雅人に翻弄されるこの3人組が、じわじわ愛おしいトリオに見えてきた人も多いだろう。

 SNSでも彼らのファンアートを大量に見つけることができる。

 しかし、そうしたキャラに不憫萌えしたり癒されたりして油断していると、とんでもない衝撃が待っているのも『VIVANT』の特徴だろう。