いじめが起きた時に、学校がそれを「なかったこと」にする隠蔽問題はもちろん深刻である。その一方で、十分な事実確認をせず、やっていないいじめの罪を学校に着せられて、生徒が加害者に仕立てあげられてしまう「いじめ冤罪」とでも言うべき不適切な指導も存在する。
発端は、2017年の5月に愛媛県新居浜市の市立中学校の2年生だったAくん(仮名)が日記にいじめについて書いたことだ。Aくんは日記の中で所属していたサッカー部内での「足を踏まれる」などの嫌がらせを訴え、それを担任である顧問が読んだことで問題が発覚した。
当時の顧問の説明によると、放課後にサッカー部で部員たちに確認すると、3人の生徒が「心当たりがある」と名乗り出たという。
学校の説明がコロコロと変わる
その3人のうちの1人、ツトムくん(仮名)の母親に話を聞くことができた。
「5月11日にサッカー部の顧問の先生から電話がかかってきて、ツトムがAくんを叩いたという話を聞きました。帰ってきたツトムに話を聞くと、部活が終わってグラウンド整備をしている時に、Aくんが立ったまま動かないことがあったそうです。それで『サッカーボールが飛んできても危ないと思って肩を叩いた』と話していました。たしかに肩を叩いたのは良くないですし、顧問の先生が『Aくんの保護者に電話で謝罪してください』と言われたので電話をして謝りました。それで話は終わると思っていたのですが……」
いじめ防止対策推進法は、いじめの定義を「当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と広く捉えている。
ツトムくんもAくんに1度“肩パンチ”を加えたことを認めており、これが「いじめ加害」として指導の対象になったこと自体には、一定の理由がある。
しかし、事態はそれに留まらなかった。
「もう一度顧問から電話があり、『被害生徒の保護者が、対面で謝ってもらわないと許せないと言っている』と伝えられました。学校へ行き、謝罪をしました。このときも、被害生徒側の訴えの確認が取れていなかったのですが、謝罪しました。そして7月に、Aくんの保護者から内容証明の書類が届いたんです」(同前)