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専門家が注目する二宮和也「ノコル」の“本当の正体”「モンゴルでは今も昔も…」

専門家が注目する二宮和也「ノコル」の“本当の正体”「モンゴルでは今も昔も…」

モンゴル研究者がみる『VIVANT』#2

2023/09/10
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二宮和也の「ノコル」にまつわる“考察”とは?

 ノコル(二宮和也)は中世モンゴル語で「僚友」という意味だ。若きテムジンの仲間たち——例えば、後のチンギス・ハーンの重臣ボオルチュなどがそれにあたる。ちなみにこの語を現代モンゴル語の発音に近づけてカタカナ表記すると、「ヌフル」となる。ヌフルは社会主義の「同志」という意味でも使われる。

 実はこのノコルについて、今も昔も人名として使われた例を筆者は知らない。もしかすると劇中においても「ノコル」は、単に「同志」という意味で使われているだけかもしれない。そして彼には、本当の名前があるのだとしたら……。ちなみにテントの幹部・バトラカ(林泰文)も実在するモンゴル人名「バドラハ」を中世風に発音したものだと考えられる。

40歳の誕生日をモンゴルで迎えたという二宮。大野智に「モンゴルにいるんだよね」と写真を送ると、「作り物みたいな街だね」と返信があったと、YouTube「ジャにのちゃんねる」で明かした(『VIVANT』公式SNSより)

 一方、本作では、現代モンゴル語の人名・地名がそのまま使われることは稀で、一部改変がなされる場合が多い。例えば、現代モンゴルでは「アディヤ」という名前はあるが、「アディエル」という名は、寡聞にして知らない。「ジャミ―ン」も「ジャミン」や「ジャミヤン」という実在するモンゴル人名を少しいじってつくったようだ。

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 アリ・ハーン(山中崇)やアル=ザイールといったいかにも中東っぽい名前についても、現実のイスラーム教徒のカザフ系住民の間でも、あまり聞かない。例外はドラム(富栄ドラム/声・林原めぐみ)。実在するモンゴル人の名前だ。

乃木とドラム『VIVANT』公式SNSより

 由来が不明なのが、テントのメンバーであるピヨ(吉原光夫)、マタ(内村遥)、シチ(井上肇)。これらは明らかにモンゴルや中央アジア由来の名前ではない。おそらく日本語ではないだろうか。あるいはテントのメンバーは、日本人孤児だという暗示なのか。しかし、それにしても河内大和演じるバルカの外務大臣の「ワニズ」という名前は、全く語源がわからない。制作陣にはぜひ教えてほしい、ワニズって何?

実在する「バルカ共和国」の地名はコレだ!

 バルカ共和国の地名に関しては、モンゴル語の地名を少し改変して作られたものが多い。まずは国名のバルカだが、バルガというエスニック集団からの発想ではないだろうか。BargaからBalkaへとrをlの音に変えているのであるが。

 首都クーダンも、ウランバートルの旧名から創られた可能性が高い。この都は、かつてチベット・モンゴル仏教の活仏が支配する宗教都市フレーだった。フレーは中国語に「庫倫(クーロン)」と転写されたが、戦前の日本にもこの名は伝わっていた。

 その他、バルカのセランガイ県は、実在するセレンゲ県とアルハンガイ県を足して二で割った名前だろう。ドゥルムト県も実在のドルノド県と響きが近い。ちなみにモンゴル語で県を意味する「アイマグ」はバルカ共和国でも採用されている。

 例外が、第8話に登場したロシア国境に近い「バヤンハイルハン」というドライブインがある地点。ここはザブハン県に実在する地名だ。

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