地名で面白いのは、どうやら日本人名由来じゃないかと思われる地名がバルカの地図に混入している点だ。例えば、アッコンヌ(Akkonne)。語尾のeをウと発音するきまりはフランス語にあってもモンゴル語にはない。おそらく「アッコ」という女性の名前から来たのではないか。
モンゴル人にはありえない「別班」
そして、本作タイトルの『VIVANT』という語。実はモンゴル語には、母音調和という規則がある。
簡単に説明すると、ひとつの単語の中に女性母音と男性母音が同時に存在しえない、というものだ。日本語のエ、ウに相当する母音は女性母音で、ア、オは男性母音。イは、中性母音でどちらにも結合できる。すると「別班―べっぱん」は「エ」と「ア」が一つの単語の中にあるわけで、モンゴル語的にはありえない音の配列だ。
だからモンゴル人は、男性母音と女性母音が混ざった単語を発音するのが、苦手だ。例えば、日本語の「オサム」という名前は、モンゴル人に「オサマ」と発音されてしまったりする。すると「べっぱん」が「びっぱん」となっても不思議ではない。さらにモンゴル語にはPの音が、本来、存在しないのでBやVの音で代用して発音する人も少なくない。すると「べっぱん」が「ヴィヴァン」と発音される可能性は否めない。
“バルカ料理”が登場しないフシギ
ひとつ気になるのは、本作では、著しくバルカ料理のシーンが出てこないことだ。赤飯は別として現地食が登場しないのである。例外的に第8話で、秘密組織テントが支援するバルカの孤児院の給食を映したシーンが出てくる。
しかし映像に映っていたのは、明らかに日本の定食だった。そのシーンでは、孤児院長による米の横流しが問題となっていたが、モンゴルや中央アジアの遊牧系の民族にとって米はさして重要ではない。肉と乳製品がメインの食事だからだ。ちなみに米を炊くときも油をたっぷりたらして炊いたり、酸乳を混ぜて炊いたりするのが、モンゴル流だ。ごはんと料理を別の皿に盛るという習慣もない。このシーンは、おそらく日本で撮影したに違いない。
ちなみにモンゴルの基本的な食事はヒツジ肉と乳製品だ。かつて遊牧民たちは、夏は馬乳酒や乳製品のみを食し、冬には肉を食べるという生活を送ってきた。もっとも現在では、モンゴルでもグローバル化が進み、野菜や小麦粉が恒常的に手に入るようになったので、彼らの食生活は大きく変容したといえる。