赤井 「死絵」をはじめとする役者を描いた浮世絵(役者絵)は、役者の人気度や演目との関わりがわかるなど、演劇史上は貴重な資料ですが、美術史では高く評価されてきませんでした。
児玉 あまり知られていませんが、実は死絵は、過去に展示会なども行われるほどポピュラーな題材ではあります。大きなものだと、平成18年に千葉市美術館で『スターよ永遠に 追善浮世絵展』と題した展示会が開催されました。また、国立歴史民俗博物館からは『死絵』の図録も出版されています。人気の高かったスター役者の死絵はやはり数が多く、推す側の熱狂がよくわかります。
推し活をポジティブにとらえている人が圧倒的に多い
赤井 また、インターネットが無かった時代には、手紙や手作りの品が推し心を伝えるアイテムとして非常に効果的でした。
展示にあたり、当館の収蔵品を整理し、日本の演劇界を支えた新劇女優、杉村春子へのファンレターや、昭和の名優・森繁久彌にファンが贈った手作りの森繁さん人形(「屋根の上のバイオリン弾き」のテヴィエの人形、記事上部右の写真)などを紹介しました。その熱量を感じた来館者の方が、「同じ『推し活』をする者として負けられない」とアンケートにご回答くださったのは印象的でした。
児玉 今回は展示会の感想や、「推し」に対する思いを付箋に書いてボードに貼ってもらったのですが、用意した付箋がなくなるくらい多くの方が書いてくださいました。「推し活!展」ならではの現象だったと思います。自由回答では、推し活を誇りに思い、人生の糧にするなど、ポジティブにとらえている人が圧倒的でした。
赤井 高校生など若い方からの取材も初めて受けました。浮世絵を見て、「これは手書きですか」「江戸時代にもカラーの絵があったんですね」「歌舞伎が江戸時代にあったと初めて知りました」など、素朴な感想をいただいたことも収穫でした。
贔屓たちの熱心さで本が出版されたことも
──贔屓連(ひいきれん・歌舞伎の役者を後援、観劇する団体)やファンクラブ、後援会など、推し活を楽しむ組織にも歴史があります。
赤井 歌舞伎役者の後援会は、江戸時代から存在していました。例えば、江戸時代の大坂の生薬問屋、吉野五運は熱心さが高じ、狂言作者に依頼して、資料総数が2800にものぼる歌舞伎資料の貼込帖「許多脚色帖(あまたしぐみちょう)」を編纂しています。