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仕事=自分の価値?

酒井 そういえば、アフリカとかで頭の上に大きなカゴをのせて荷物を運んでいるのはぜんぶ女性ですよね。女性から不満の声は上がらないんでしょうか。

高野 ずっとそういう生き方をしているので、疑問に思わないのかもしれませんね。日本人の感覚でいうと、男性は働くことでプライドを満たしているところがあると思うんですが、タイとかミャンマーの男たちは働いていなくても平気なんです。不思議に思って現地の人にきいてみたら、彼らは「妻が働きたいから働かせてやっている」という不思議な“上から目線”でプライドを保っているらしいんです。

酒井 えっ。

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アフワール湿地帯の風景(画・山田高司)

高野 でも僕、日本の男性もこういう視点の転換法を少し取り入れてもよいのでは、って思うんです。仕事=自分の価値だと思うから、そこに女性が参入してきて自分より上だと感じるとプライドが傷ついたりして、変に攻撃的になったりするわけじゃないですか。上から目線になる必要はないけど、自分なりの適材適所という考え方があれば、日本の男性はもっと楽になれるんじゃないかと思ったりするんです。

アラブやアフリカだと子どもがいないことがありえない

酒井 落ち込まずに専業主夫をしてくれる男性が増えれば、女性も働きやすくなりますしね。

高野 そうなんですよ。

酒井 私、ラオスに学校をつくるプロジェクトに参加していて、支援している村に行ってホームステイをしたことがあるんです。ほとんどアダムとイブの世界みたいな村で、朝になると人間と水牛と豚と犬が一緒に焚き火にあたっている。そういうところで「結婚してない」なんて話をすると、すごく珍しがられて「なんでだ、どうしてだ」ってずっときかれるんですよ。

高野 わかります。僕も子どもがいないという話をすると「なんでだ」って言われて、アラブやアフリカだと第二夫人を持てって真剣に言われます(笑)。彼らからすると、子どもがいないことがありえない。「どうしてだ」って言われるのがあまりにも面倒くさくて、最近はペットの犬のことを娘のように話して逃げるようにしています。「いま13歳。かわいくてしかたない」って。

※結婚や子供と「幸せ」の問題や、バブル時代に学生生活を送った2人の意外な共通点、高野さんが感じた“大人にならない光線”についてなど、対談の全文は、『週刊文春WOMAN2023秋号』でお読みいただけます。

酒井順子(さかいじゅんこ)/1966年東京都生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業に。2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞を受賞。近著に『無恥の恥』(文藝春秋)、『百年の女―「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』(中央公論新社)など。

高野秀行(たかのひでゆき)/1966年東京都生まれ。『幻獣ムベンベを追え』(集英社)で1989年デビュー。『ワセダ三畳青春記』(集英社)で2005年に酒飲み書店員大賞、『謎の独立国家ソマリランド』(集英社)で2013年講談社ノンフィクション賞等を受賞。近著に『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)など。

text:Kosuke Kawakami photographs:Hirofumi Kamaya