「あれはどうにもおかしな感じだったよね」

「いつもそうだけど、ぼくをじっと見つめていたよね」

「それは違う。あなたが私をおかしな感じで見つめていたの」

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 ロコのバジリスクについてツイッターでやりとりをした関係で実際に会ったとき、マスクは、フリーモント工場の見学に彼女を誘った。これがマスクの考えるいいデートなのだ。ときは2018年3月、週5000台をめざす狂乱のさなかである。

「夜中、工場を歩いては、彼があれこれ直すのを見ました」

寝る前に軍事史などを語り合う

 翌日、レストランに向かう車で、マスクは、まず加速力を誇示した。続けて両手を離し、目を覆って、彼女にオートパイロットを体験させたという。

「なにしてんの、頭おかしいんじゃないのと思いましたよ。でも、車は勝手に合図を出して車線を変えて走っていくんです。マーベル映画の一シーンのように感じました」

 そうやって着いたレストランでマスクは、壁に「EM+CB」と彫り込んだ。

 そのあと、まるでガンダルフみたいねと言われ、こんどは『指輪物語』のトリビアを次から次へとくり出した。本物のファンなのか確かめようとしたのだ。合格だった。

「私にとっては大事なことなので」とマスクは言う。

 彼女からマスクへは、集めている動物の骨がプレゼントとして渡された。

 夜には、ダン・カーリンの『ハードコア・ヒストリー』など、歴史のポッドキャストやオーディオブックをよく一緒に聞いたという。

「真剣に付き合うには、軍事史などを寝る前に1時間とか聞ける人でないとだめなんですよ。イーロンとは古代ギリシャやナポレオンや第一次世界大戦の軍略など、本当にいろいろなことを語り合いました」

2、3週間一緒にいてあげるつもりが、ずっと一緒にいることに

 仕事が大変なことになり、心もずたぼろになっていた2018年、実はこういうことも起きていたのだ。

「なんだか大変なことになっているみたいね。音楽の機材を持ち込んで、ここで仕事しましょうか」

 そうしてくれるとありがたい、がマスクの本心だった。ひとりはつらいのだ。そう言われたグライムスは、気持ちが落ちつくまで2、3週間一緒にいてあげようと思ったそうだ。

「ところが、いつまでたっても嵐が収まる気配がなくて。船から降りるに降りられず、ずっと一緒にいることになってしまいました」

 グライムスは、夜に何回か、バトルモードのマスクと工場を歩いたことがあるという。