大手出版社を出奔し、現在フリーのマンガ編集者。デカい図体に博覧強記で性格はイヤミ――長崎尚志さんが生み出した“探偵”醍醐真司は、一筋縄ではいかない複雑なキャラクターが大きな魅力のひとつだ。
「よく聞かれるので最初に断っておきますが、醍醐に特定のモデルがいるわけではありません。もちろん、私でもありませんよ(笑)。マンガの薀蓄ひとつかたむけるのにも、資料と首っ引きになって書いているくらいです」
長崎さんはマンガ編集者、原作者として数々のヒットを生んできた。小説という異ジャンルでも活躍し、醍醐シリーズも早3作目。
「とはいえ書き手としては、いつも何か工夫をと頭を抱え、どうしようかなと悩む状況です。これまではマンガ編集の仕事のことを書いてきましたが、今作では一歩進めて“編集長”という仕事に焦点を当てました」
会社員小説はゴマンとあれど、雑誌編集長ものは珍しい。寄稿家との丁々発止のやりとりから、部下へのアドバイスと叱咤、末はマンガ雑誌とは何かまで問われる。出版に縁のない読者にとっても、職業人としての心構えを刺激される普遍的な物語に仕上がった。
「カッコいいように思われるかも知れませんが、労多くして……という仕事なので、つまらない部分はバッサリ削りました。事務仕事や頻繁な会議。その辺は中間管理職と変わりませんから。じつはこの作品は私自身がマンガ誌の編集長をやっていたときにやれなかった、ある種の後悔が書かせた部分もあると思います。日常業務や目先の売上に追われてつい忘れてしまうのは、マンガ雑誌の本分は何か、創刊コンセプトは何だったのかという根源的なこと。改めてそのことを考える機会にもなりました」
醍醐が就任を依頼されるのは、部数が右肩下がりのマンガ誌の編集長。前任は辣腕で知られた名物編集者だったが、誌面を一新する直前に不穏な死を遂げていた。死の謎を追い展開するストーリーは謎が謎を呼び、どんでん返しに次ぐどんでん返し。戦後日本の闇にまで光が当たる驚きのエピソードもあり、エンタメ性はてんこ盛りだ。
「マンガ編集者はマンガ家の伴走者で、作品を一緒に作り上げるものですが、小説の編集者は違う。作家が書き上げたものに事後的に介入してくる。アドバイスをもとに加筆していくプロセスがいつも新鮮で面白いんです。私自身は小説を書くたびマンガと小説の業界の違いを実感して楽しんでいますよ。読者も作風の違いを面白がってくれれば嬉しいですね」
『編集長の条件 醍醐真司の博覧推理ファイル』
出版業界の難事件を解決に導いてきたフリー漫画編集者・醍醐真司は、部数が漸減するマンガ誌の編集長就任を依頼される。雑誌を立て直すため切歯扼腕する醍醐の前に見え隠れするのは前編集長の誌面改革の痕跡。その前編集長の謎の死を追っていた元警官の水野優希とコンビを組み、醍醐が辿り着いた真相とは――。
連続ドラマW『闇の伴走者~編集長の条件』
3月31日放送スタート 毎週土曜よる10:00〈全5話〉
http://www.wowow.co.jp/dramaw/bansosha2/