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“ある種の共犯関係”にあった人々

 さらに、ジャニーズ事務所と各テレビ局、広告代理店などでの癒着問題は、いわゆるビジネス人権上の問題として、人権デューデリジェンスという一般的には耳慣れない単語まで飛び出すようになりました。これは、前述のように北公次さんの告発本や、文春との裁判で少年への性加害が認定されてなお、それと知っていながらジャニーズタレントに人気があるからと言って性犯罪に目を瞑り、結果的にジャニーズ事務所のタレントの売り出しに貢献してきたことは、ある種の共犯、幇助であるとも言えます。

 おそらく、これらの片棒を担いだメディアの問題は、ジャニーズ事務所の解体が決まってから総括の対象となっていくことでしょう。

「外部専門家による再発防止特別チーム」©️文藝春秋

 さらに、そのような事務所の実態があることは社会的にある程度知られていながら、そのような事務所に愛する我が子を入所させ、性加害の現場となった「合宿所」に寝泊りさせジャニー喜多川さんやその関係者らの性欲の具にされた件もあります。これは実質的に人身売買にも近しい問題にもなり得ます。というか、我が子たちが望まない性加害の対象となったという犯罪性を、未成年である子どもたちはともかく親たちは本当に知らなかったのでしょうか。

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 この辺がなぜいままで沈黙してきたか、ジャニーズ問題の深い病理があるように感じます。仮に、私が自らの子どもを問題あると分かってそういうところに「頑張ってこい」と背中を押すかと言われれば、それは無い。でも、親が我が子をスターにしたいとか、ジャニーズや芸能界にもともと憧れていたとか、経済的に困窮しているので子どもを芸事の世界に入れてでもカネが欲しいとか、いろんな感情や欲望が渦巻いていたのだとしたら、これもまた、ある種の人身売買に積極的に加担したことになるのではないか、とすら思います。

「推し」そのものが抱えている“ある種の問題”

 その結果、冒頭のようにケーキ屋さんでSnow Manのクリアファイル配布キャンペーンでジャニーズ事務所のタレントが起用されると、Snow Manの女性ファンが各所から集まってきて、黙々とグッズをもらうために行列を作り、そして私が巻き込まれるという悲しい状況があります。これは明らかに男性、それも未成年の性が商品となり、消費されている構造に他なりません。

 言わば、現実はかくも凄惨な性犯罪の老舗も同然であるのに、虚構の世界では煌びやかに着飾り、女性たちを魅了するダンスや話術に磨きをかけた、躍動する若者たちの青春だったとするならば、そのような推しの世界もこのまま存続していて良いのでしょうか。

写真はイメージ ©️AFLO

 夢を見させられたファンもその世界の存続を願う時点で共犯、というのは気が引ける表現ですが、一連の事態が明らかになり大騒ぎになりながらも、それでも健気にジャニーズ事務所の若いタレントたちを応援する女性の「推し」そのものが病理であり問題なのだとも言えます。悪く言うと「推しは尊い」とか一心不乱に応援することがファンの在り方で、その動機や対象の良し悪しが問われないというのは、見方を変えれば事業者側からすれば都合の悪い話を見ないでカネを積んでくれる単なるカモの話です。絶対に成就することのないアイドルとの交際を夢見る女性の心を掴む悪の運営ノウハウそのものであって、見返りのない推しに金を使わせるアプローチは疑似恋愛のホスト界隈とさほど変わらない悪質さを秘めていると言えます。