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「全員うすうす気づいてましたよね…」燃えに燃えているジャニーズ性加害問題から見えてくる“深すぎる病理”

2023/09/22
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 また、ジャニーズ事務所が性犯罪の巣窟であったから反社会的勢力であり取引停止を進めていくのだとスポンサー筋がイキリ立って、自社のブランドや商品・サービスからジャニーズタレントの起用を停止するという話も同時に出てきました。そうですか。

 でも、人権デューデリジェンスの観点から言うならば、性加害そのものをジャニー喜多川個人の問題だと押し付けて終えられる時期はとっくに過ぎ、最終バスは逃しました。こうなると、ジャニーズ事務所の事態改善に関しては「駄目だと思うから取引を止めました」というだけでは駄目で、継続的に取引先や起用メディアが関与して監視を続けないと、被害救済や再発の防止にならない虞はあるのですよ。したがって、ジャニーズ事務所が健全宣言を出してもそれをそのままには受け取らず、そこで出た行動改善指針の通りにちゃんと改善されているのか、また過去の被害者にも適切な補償が行われているのかを見届けないといけません。

 さらに、“当事者の会”も立ち上がっていますが、いくら野党が法律を変えたところで、一般的にはすでに時効を迎えている過去の性被害に関しては遡及して刑法上の責任は当然問えません。常識的な性加害に対する賠償額というのは繰り返し行われた悪質なものであってもせいぜい一人あたり数百万円が相場なのであって、被害を申し出た元ジャニーズタレントやその関係者が求める弁済額には到底届かない所があります。その間に、ジャニーズ事務所の相続問題を解決した喜多川一族が、補償するためのバッドカンパニーを破産させて逃げることだってやろうと思えば可能であることを考えれば、これはもう戦後の芸能界が抱えた汚点そのものだった、とも言えます。

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見つめる必要があることは?

 性加害も枕・闇営業も暴力団とのかかわりも、世の中の仕組みであり、必要悪だからという謎の理屈で許容されてきた背景は、やはり人間の欲望の中心である、カネとセックスとにダイレクトに関係しているからに尽きます。テレビ局も広告代理店もスポンサー企業も、うすうすそのような事情があることは承知したうえで、なお、リスクよりもメリットが大きいと判断して大金を払いイメージキャラクターに起用し続けてきていることが根幹の問題だと言えます。中には、ジャニーズ事務所から性的な饗応を受けた経営幹部がテレビ局の中に少なくなく、本当の意味で共犯の人も複数いるのかもしれません。

ジャニーズ事務所 ©文藝春秋

 一連の問題が、みんなでジャニーズ事務所だけを袋叩きにして終わりとならず、もうちょっと事実関係を広く見据えて「うすうす全員気づいてましたよね」という類の案件も一緒に整理して業界全体を健全化する、あるいは、少なくとも「問題だ」となったらきちんと声を挙げられるようにする社会にしていったほうがいいと思うんですよ。綺麗事ではなく、今回の問題こそ、ちゃんと着地させないとうっかりケーキも安心して買えない社会になってしまうと感じますのでね。

「全員うすうす気づいてましたよね…」燃えに燃えているジャニーズ性加害問題から見えてくる“深すぎる病理”

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