“くさや汁”がもう絶品で(笑)
高野 ゲーマルとかもちろん大好きですが、一番は湿地帯の「マスムータ」。開いた魚を数週間陰干しして発酵させたもので、くさやにそっくりなんです。軽く焼いてから、油たっぷりの汁に玉ねぎや野菜を入れて煮る。臭いからバグダードの人は食べないんですが、このくさや汁がもう絶品で(笑)。
酒井 さすがにマスムータは食べたことがないですが(笑)、私の一番はティシュリーブ。一言でいうと、パリパリに固くなったパンのうえに、玉ねぎやヌーミバスラ(乾燥ライム)や鶏肉のスープなどをぶっかけた「猫まんま」です。
高野 現地で食べましたが、あれは究極のリサイクル料理ですよね!
酒井 そうなんです。中東のパンって焼き立てじゃないと美味しくないじゃないですか。時間が経つと恐ろしく硬くなって、私なんて食べてて歯が折れたことがありますよ。あれをどうリサイクルするかが大問題で、イラクではスープをぶっかけて食べる。すごく好きで……という話をすると、イラク人から「なんでお前は猫まんまが好きなんだ。貧乏人」みたいに笑われますが。
あと忘れてならないのがクッバ。シリア料理とか日本でもアラブ系の料理屋さんではクッバというと、クスクスの粉とひき肉をまぜて揚げた肉団子みたいなのが出てきますが、イラクではクスクスのかわりにご飯を使い、ご飯で具材を包んである。それを煮たものがすいとんみたいでとても美味しくて。
「爆弾テロで俺は子供を3人亡くしたんだぜ」
高野 へー、米でくるんで煮たものもクッバだったんですね。
酒井 そう、特に南部の人は「クッバは煮るに限る」という。北部の人はクッバを小麦で作るんですが、お好み焼きみたいに平べったくして焼くんです。あれはおやつ感覚で病みつきになる美味しさです。
高野 僕が、よくあるクッバを食べたのはバグダードで、ひき肉を小麦の衣でくるんだタイプのものでした。美味しさもさることながら、そのお店は2回も爆弾テロにあっていて死者も出ているのにまったくめげずに営業していて、人で賑わっているし、イラク人のタフさに感銘を受けました。
酒井 商店街の角のお店ってしょっちゅう爆弾テロに狙われるんですよね。この数年こそやっと落ち着いてきましたが、ある店主は「俺は子供を3人亡くしたんだぜ」と言っていました。それでも平気な顔をして店を守っていて、彼らは本当にタフです。
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