レーダーで捉えにくい低空を、それも変則軌道で飛ぶハイパーソニック兵器を撃墜するには、発射から迎撃までの過程をすべて捕捉するシステムの構築が不可欠となる。米国は、これは宇宙しかないと判断し、宇宙空間にセンサーを積んだ大量の衛星を配備し、発射直後からハイパーソニック兵器を捕捉して追跡、迎撃する「誕生から死(from birth to death)」と呼ぶシステムの構築を目指している。
日本も宇宙を重視する取り組みを強める
トランプ政権で開発担当のトップを務めたグリフィン国防次官は「どこに迎撃対象があるのかを把握する必要がある」と宇宙空間に大量のセンサー衛星を配備することが重要だと説いた。地球から最も近い2000キロ未満の低軌道に少なくとも1000基の衛星を配備してセンサー網を構築する考えを示した。衛星の打ち上げ費用は、総額200億ドル(1ドル=140円換算で2兆8000億円)と試算した。
こうした取り組みにあわせるかのように、米国は19年12月に宇宙軍を設立、日本もそれにならって20年5月に自衛隊に宇宙作戦隊を設立した。22年12月には、航空自衛隊を航空宇宙自衛隊に改称することも閣議決定するなど、宇宙を重視する取り組みを強めている。
ロシアや中国はさまざまな衛星攻撃兵器の開発に取り組む
宇宙には、米国が開発・配備を目指すセンサー衛星のほか、さまざまな種類の軍事衛星がある。偵察衛星や、弾道ミサイルの発射を検知する早期警戒衛星、通信衛星などだ。カーナビやスマホの位置情報に欠かせない全地球測位システム(GPS)衛星もそもそもは軍事用に開発された。米国の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)は、発射直後に衛星と交信して正確な位置情報をつかむ。このシステムの導入で精度が飛躍的に高まった。ロシアはGLONASS、中国はバイドゥーという自前の測位衛星網を築いている。
こうした基幹衛星は有事の際に攻撃対象となる。衛星は防御のための武器を積んでいないため、簡単に撃ち落とせる「おいしい標的」となるからだ。67年に発効した宇宙条約は、宇宙空間に核兵器など大量破壊兵器を配備することを禁じるものの、それ以外の兵器は規定がない。このため、ロシアや中国はさまざまな衛星攻撃兵器(ASAT)の開発に取り組んでいる。