ロシアによるクリミア併合、そしてウクライナ侵攻以降、核軍縮の流れは一気に転換し、武装強化による安全保障の流れがいたるところで進んでいる。なかでも近年、各国が力を注いでいるのが「宇宙」を舞台に想定した武器開発だ。
航空自衛隊が航空宇宙自衛隊へと改称されることが決まった日本では、いったいどのような対応がとられているのか。毎日新聞専門編集委員の会川晴之氏の『核の復権 核拡散、核共有、原発ルネサンス』(角川新書)より一部を抜粋して紹介する。
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本格化する宇宙戦争
ロシアと中国が、米国が築くミサイル防衛(MD)システム突破を狙い、乾坤一擲の大勝負をかけて開発したのが極超音速(ハイパーソニック)兵器だ。
音速より遅いが、それに近いのが亜音速、音速以上のマッハ1から5未満がスーパーソニック(超音速)、そして、マッハ5以上の超高速で飛ぶのを極超音速と呼ぶ。特徴は速度だけではない。海面(地上)を這うように低空で飛ぶ。海上や地上配備のレーダーではなかなか捉えられない。地球は丸く、水平(地平)線の先は見えないからだ。さらに、航空機のように機動性が高く、自由に飛行経路を変えることもできる。
当然、防御も難しくなる。ハイテン米戦略軍司令官は、18年夏にあった会合で「見えないものは撃ち落とせない」と、ハイパーソニック兵器で攻撃を受けた際、米国はお手上げだと告白している。
ロシアや中国のほか米国、そして北朝鮮やイラン、インド、日本も開発に取り組んでいる。その中で、ロシアと中国の取り組みが先行している。
米国の新たな防衛体制のカギは“宇宙”
ロシアと中国はハイパーソニック兵器以外でも、米国のMD突破を目指す新兵器の開発に取り組む。米本土を最短距離の北極経由ではなく、MDが手薄な南方向から狙える新型兵器の開発がそれだ。ロシアが22年春に初めて実験した巨大な大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」は射程が1万8000キロあり、南極経由でも米本土を狙える。中国が21年7月に初めて実験した小型スペースシャトルに核兵器を載せたような新型兵器も、同様に南極経由で米本土を攻撃できる。
中露両国が、MDでは対応できない新型兵器の開発を始めたことを受け、米国は新たな防衛体制の構築に着手しはじめた。そのカギは宇宙にある。