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米国は無人宇宙船の実験飛行を2010年以降、6回実施

 そのひとつが、米ソ両国が東西冷戦時代から手がけた地上や航空機から発射するミサイルで衛星を撃ち落とす手法だ。07年1月、中国が地上から発射したミサイルで自国の衛星を破壊するASAT実験を実施した。これにより約3000個もの宇宙ごみ(デブリ)が宇宙空間にばらまかれた。09年には米国の通信衛星とロシアの軍事衛星が衝突、2000個のデブリが新たに生まれた。

 宇宙空間に漂うデブリは超高速で飛ぶため、1センチ大のものでも衝突すれば、小型車が時速70~80キロで衝突したのと同じ衝撃度となる。国際宇宙ステーション(ISS)は、こうしたデブリとの衝突を回避するため頻繁に高度を上げ下げしている。その後もインドが19年3月に自国の衛星を撃墜して約400個、21年11月にはロシアが同様の実験で約1500個のデブリをばらまくなど、ASAT実験は後を絶たない。

 ミサイル以外では、宇宙空間で相手の衛星に接近し、レーザー光線やマイクロ波などで攻撃する手法や、ロボットアームで相手の衛星をつかんだり、衛星に体当たりしたりする手法もある。中国やロシアは、宇宙空間に投入した衛星(母船)から子衛星を放出し、他国の衛星に接近する実験を繰り返している。サイバー攻撃で相手の衛星を「乗っ取る」ことも理論上は可能だ。もちろん、米国も同様の機能を備えた「X37B」と呼ばれるミニチュア版のスペースシャトルとも呼べる無人宇宙船の実験飛行を10年以降、6回実施している。

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2022年11月、6回目の試験飛行を終え、ケネディ宇宙センターに帰着したX37B(米宇宙軍提供) 

核戦争の「引き金」を引く要素は増える一方

 宇宙の重要インフラである衛星が破壊される事態になれば、軍は目も耳も失うことになる。米国はこうした事態を想定し、高い能力を備えた大型衛星に依存する体制を改め、段階的に小型・分散化に取り組み始めている。

 さらに、米国は18 年にまとめた「核態勢の見直し(NPR)」で、重要なインフラを攻撃された場合は核兵器で反撃する方針を初めて盛り込み、「宇宙インフラを攻撃されれば核のボタンを押すこともありうる」との姿勢を明確に打ち出した。

 ロシアも6年ぶりに改定した20年の核戦略に、相手からの核攻撃だけでなく「死活的に重要なロシア政府の施設、軍事施設に敵が干渉した時」には、核が使用できると明記、米国と同じ考えを導入して対抗した。

 米国がハイパーソニック兵器対策として宇宙への配備を目指す新たなMDシステムと言えるセンサー衛星網も、早期警戒衛星や通信衛星など他の軍事衛星と同様に、攻撃を受ければ核兵器使用の条件を満たすことは確実で、核戦争の「引き金」を引く要素は増える一方だ。