JAXAの担当者も「パラパラできるか分からない」
小山氏への打診が終わった帰り道、天野は歩きながらずっと考えていた。
漫画でしょ。ギャグ漫画、漫画喫茶、四コマ漫画、アニメーション……連想が続いていくうちにお笑い芸人でありイラストレーターの鉄拳が、頭に浮かんだ。
あっ、パラパラ漫画! 宇宙でパラパラできんのかな。
思わず声に出していた。行動の人は思いついてからがとにかく早い。JAXAの担当者に電話して「パラパラできます?」と尋ねると「どうでしょう、これまで実証したことがないから分からない」との回答。これだ、と膝を打った。
「JAXAの人も分からないなら、予定不調和で面白い」
小山サイドにすぐに再打診して「面白い」と共鳴を得ると、JAXAからも前向きな返答を得た。天野はそう言ってもらえると確信を持っていた。
「協力していただく方すべてに喜んでもらいたい。注目を集めればJAXAの活動にもより一層、関心を持ってもらうことになるし、『宇宙兄弟』サイドにしても、新作をまさに宇宙で発表できるというのは非常に意義深いと思ったんです。これはうまくいくなって、直感的に」
漫画は全254ページにも及ぶ。「小山先生は、(物語の内容に)納得いかなくて一度書き直した」ほどの力作。8月に完成した作品の「練習版」を金井飛行士に渡し、「ボロボロになるまで練習していただいた」。確かに250ページ以上をきれいにパラパラしていく作業は難しい。筆者も試しにチャレンジしたが、パラパラというよりバラバラだった。
9月に本番用を引き渡し、12月にISSに運ばれた。パラパラ漫画は既に、宇宙にある。
“頑張れニッポン”だけでは盛り上がらない
そもそもなぜパラパラ漫画がPRになるの?
筆者の心の声を読んだ天野は言った。
「誰か著名な方がでてきて“頑張れニッポン”と言うだけで盛り上がるとは思わないんです。ストレートにやることでストレートに伝わる、とは限らない。むしろストレートに伝えなくて間接的なほうがストレートに伝わるというのはフロンターレで学んだこと。パラパラ漫画が東京オリンピック・パラリンピックの応援になるこの間接さによって、ストレートに伝わると思っています。だってワクワクすること、ドキドキすることってみなさん好きじゃないですか」
目のなかにある星をさらに輝かせて、彼は力説した。