山田 そうそう。高野が湿地民の家でインタビューしているとき、お母さんが顔を覆っているヒジャーブをとって「描いてくれ」っていうの。岩のような顔をしたお父さんは憮然とするんだけど、お母さんが喜んでるからまあそこまでは良かった。ところがそこに年頃の娘さんがやってきてパッと素顔をさらして、「私も描いて」と。
高野 突然、お父さんの目が怒りに燃え上がって、「はぁん?」みたいな顔になった。
本当にヤバい!と思って…
山田 俺はもう殺されるんじゃないかと思ったよ!
高野 本当にヤバイと思って、僕が唐突にエレキ漁で痺れた魚みたいなコントをして、みんなの笑いをとった。まわりがゲラゲラ笑っているからお父さんもホストとして怒るに怒れなくて……。そうやってなんとか矛をおさめてもらったこともありましたね(笑)。
山田 もうホント命がけだったよ。すごく美人な子で、彼女だけ描かないのもかわいそうだから頑張ったけど。
高野 まあこれは笑い話ですが、こうやって必死に二人で力をあわせて3度の現地取材を重ねられたのは、隊長とのタッグだったからこそ。僕だけでは実現できなかったすごく貴重な民俗誌的記録の詰まった一冊になりました。
隊長が命がけで描いた似顔絵も『イラク水滸伝』には載っているので、ぜひみなさんに楽しんで頂けたらと思います。今日はありがとうございました。
山田 こちらこそ、ありがとうございました。
(くまざわ書店八王子店にて)
プロフィール
高野秀行(たかの・ひでゆき)
ノンフィクション作家。1966年東京都生まれ。ポリシーは「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)でデビュー。『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫)で酒飲み書店員大賞、『謎の独立国家ソマリランド』(集英社文庫)で講談社ノンフィクション賞等を受賞。他の著書に『辺境メシ』(文春文庫)、『幻のアフリカ納豆を追え!』(新潮社)、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)などがある。
山田高司(やまだ・たかし)
探検家、環境活動家。1958年、高知県生まれ。東京農業大学在学中の1981年に南米大陸の3大河川をカヌーで縦断し、「青い地球一周河川行」計画をスタート。85年にアフリカに渡り、セネガル川、ニジェール川、ベヌエ川、シャリ川、ウバンギ川、コンゴ川の川旅を成し遂げる。1990年代後半から2000年代前半にかけて環境NGO「四万十・ナイルの会」を主宰。愛称は、山田隊長。
文藝春秋