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水牛のウンコを魚に食べさせ、その魚を住民が…イラクの数千年変わらない“秘境湿地帯”に最先端のSDGsを見た!

高野秀行✕山田高司 対談

source : ライフスタイル出版

genre : ライフ, 社会

note

麻薬地帯に行ったヤバい本を出版社に持ち込んだら…

高野 実は隊長に声がけしてもらったのは、僕にとってもすごく有難いタイミングだったんです。あの頃、精神的にも経済的にもどん底だったから。ミャンマーのワ州でアヘンの取材をしてきた後、原稿を書いて出版社に持ち込んでも全く相手にされず、どこの馬の骨かもわからないフリーライターが麻薬地帯に行ったヤバイ本なんか出せないと門前払い。「君まだ若いのに、こんなことしてちゃ駄目だよ」と説教されたりして、30過ぎて無職の絶望感に浸っていた。

 タダでアフリカに行けて、その間、飲み食いできて泊るところもある。ありがたい!と思って同行したんですね。

山田 今ならありえない話だろうけど、4カ月で、ルワンダ、ケニア、タンザニア、エチオピア、スーダンを一緒に回ってくれたよね。

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高野 アフリカ以外にも、隊長は「世界中を川で結ぶ」ことをライフワークにかかげて世界中の川を巡っていて、非常に早い段階から環境保全を訴えて植林活動をしていた。隊長がよく言っていたのが「持続可能な成長」。当時の日本ではまだ誰もそんなことを言ってなかった。

山田 川の流域から陸を見ると、森林破壊や砂漠化の問題が最前線でわかるんですよ。

高野 そんな隊長といずれナイル川を舟で旅しようと約束してたんですね。僕はずっと隊長が各国で川下りの冒険をしてきた話を聞いてたんで、一緒に行くのが夢だった。「いつかやろう」と言いつつ、なかなか機会と時間が合わなくて、話が遠ざかっていたんですよね。

 時を経て2017年。たまたま僕がイラクに巨大湿地帯があるのを新聞記事で読んで、すでに失われたはずの湿地帯が復活しているのを知って、絶対に行こうと決めました。ただ、やっぱり1人で行くのは不安だからパートナーが欲しい。辺境に強くて危険地帯も良く知っていて、カメラの撮影もできて自然の生態に強い人。そんな人いるわけないだろうと思ったら……。

©細田忠

山田 ここにいたわけだ(笑)。20年来の舟旅の約束を果たさにゃいかん、4カ月タダ働きさせたお礼をいつかしようと思ってね。それが蓋を開けたら、足かけ4年も縛られた。

高野 本当に隊長には頭が上がりません。一番最初に隊長のところに相談に行って、イラクの湿地帯アフワールの動画を見せたら、「おお、いい舟やな。いい舟大工がおるんやなぁ」と言うので、ビックリしたのを覚えています。

山田 まあ舟があれば、普通舟大工がいるものだから。かつて四万十には村ごとに舟を作れる人がいたから経験的に分かるんですよ。自分も2回くらい作ったことがあるし。

高野 そんな人なかなかいない(笑)。舟があれば地元の人たちに警戒されずに湿地帯を巡れるんじゃないかと考えて、僕たちはイラクに行って最初に、伝統的な舟タラーデを作れる舟大工を探したんですね。そしたら代々、マンダ教徒が舟大工をやっているという。非常に不思議な人々でしたよね、マンダ教徒たちは。

舟大工に頼んでタラーデを作ってもらう。彼らはムスリムだが、祖先がマンダ教徒に舟造りを習ったという。 ©高野秀行

山田 うん、実に変わっていた。マンダ教の人たちはあたりがとてもソフトで、表情も柔らかい感じでしたね。