石川さんの言う「ようやくみんなと同じ位置に立てた感じ」という表現は、「東大卒」の人に言われると「いや、あなたは日本一の大学を卒業している優秀な人じゃないですか」と感じられてしまうかもしれないが、勉強ができることと仕事の段取りやコミュニケーションがうまくいくかどうかは違うということだ。
「東大時代の友人は官僚になったり弁護士になったりしている人がいます。そんな友人たちに会うと、みんなキラキラしながら仕事の話をしていて、意識が高くてついていけないなと思ってしまいます。そして、自分のうしろめたさを感じます。みんなには1社目の一流企業をクビになったことを言っていないし、発達障害で困っていることも話せません」
しかも、東大時代の同期はみんなどんどん給料が上がっていっている。対して石川さんは新卒の頃と変わらないどころか、年収にして150万円ほど下がってしまっているという。現在の会社でも何度か降格させられており、今後一生給料が上がらないのではないかという不安も抱えている。
東大卒は“損”か?
最後に、石川さんに東大卒であることを“損”に思ったことはあるか聞いてみた。
「それはあります。やはりハードルを上げられてしまうので、『東大卒だったら何でもできるだろう』というような感じで“合格ライン”が上がってしまう感じがあるんです。だから、なるべく隠しておくほうが得だなと思います。ただ、自分が東大に入れたという経験は誇りに思いたいし、東大は自分にとても合っている場所だったので、それはすごく良かったなと思っています」
石川さんにはもっと輝ける場所があるように思う。学歴だけがすべてではないが、せめて東大卒という称号が働くうえで“損”であってほしくない。
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