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メルケル前首相もハマる世界最高峰の音楽フェス! 楽劇王ワーグナーが生んだ「バイロイト音楽祭」

2023/10/03

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

genre : エンタメ, 芸能, 音楽

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2023年は「大変豪華」な年

 バイロイト音楽祭では新演出の『リング』を4年間上演し、その後1年か2年の「リングの無い年」を経て、新たな演出の『リング』が上演されるというルーティーンになっている。「リングの無い年」は、『さまよえるオランダ人』『タンホイザー』『ローエングリン』『トリスタンとイゾルデ』『ニュルンベルクのマイスタージンガー』、そして『パルジファル』の6作のうち5作が上演される場合が多い。そのうち必ず1作は新しい演出となる。

『リング』のカーテンコール

「リングのある年」は『リング』4夜に加えて他に3作品が上演されるが、今年2023年はコロナで中止となった2020年の分も含めて『リング』4夜に加えて4作品という大変豪華な年となった。『ローエングリン』と『ニュルンベルク』以外の全てが上演されたことになる。

 バイロイト音楽祭の真骨頂が『リング』にあることは間違いないが、僕の個人的な感触では、バイロイトで最も特別な作品はワーグナー最後の楽劇作品にして、ワーグナー自身が「舞台神聖祝典劇」という仰々しい枕詞まで付した『パルジファル』であるように思う。

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『パルジファル』の舞台より

 聖金曜日に白鳥を矢で殺してしまった無垢で無知な青年が、やがて知徳を得て聖杯の儀式を司る王・アンフォルタスを救済(と言えるかどうか議論はある)するという、キリスト教的モチーフが色濃いこの超大作のあらすじや詳細についてはWikipediaやその他ガイドをご参照願いたいが、この作品は恩人であるピアニストのリストの妻を不倫の果てに略奪するなど悪徳の限りを尽くしたワーグナーが、人生の晩年に至ってある意味懺悔にも似た祈りを込めて作り上げたものであると思う。

ワーグナーが眠るヴァ―ンフリート館

 それゆえ、病的な完璧主義者にして最強にワガママな芸術家であるワーグナーは、この『パルジファル』の上演に関して、かなり細かい条件をつけた。