「キングセイコー」の魅力、それは凝縮された高級感です。私が持っているのは2代目のキングセイコー、KSKをベースにした「SDKS003」ですが、注目すべきはケースの仕上げ。もともとセイコーは卓越した研磨技術を持っているのですが、このモデルにおける研磨にはその真骨頂が見られます。22万円という価格帯ではなかなか見られない手間ひまがかけられていて、職人の粋を感じさせます。
ほかにもシンボルの盾マークや高級ライターを思わせるライターカットが施された12時位置のインデックスなど質感の高いディテールが随所に。カラーバリエーションも充実していますが、私が買ったのは、グレーの文字板にタテの筋目が配されたこちら。かちっとしたスーツはもちろん、ジーンズに合わせてもシブい1本です。
腕時計は持ち主の個性や価値観を映す“嗜好品”
――ご紹介していただいた4本中3本が日本ブランド。やはり日本の時計技術は優秀なんですね。ただ、ふと思ったんですが……。例えばApple Watchだってオンオフ問わず使えますし、大人が着けていても恥ずかしくありません。価格も数万円~10万円台から手に入りますし……。なのに今なぜ、わざわざ本格的な腕時計を選ぶ人が根強く存在するのでしょう?
関口 私が思うに腕時計というものは、持ち主の個性や価値観を映す“嗜好品”だからだと思うんです。腕時計を見ると、その人の価値観や嗜好がある程度わかるんです。時には、時計が見知らぬ人同士の会話の糸口になるかもしれない。スマートウォッチはたしかに機能的ですが、そういったことはあまりない気がします。スマートウォッチが広く市民権を得たことで、逆に腕時計の嗜好品的な価値が際立ち、それが人々にあらためて認識されたのではないでしょうか。個性や価値観、仕事への姿勢を表現する道具として、本格腕時計を愛好する人は今後ももっと増えていくんじゃないかと思います。
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せきぐち・ゆう/1984年生まれ、埼玉県出身。出版社に入社後、スイス・バーゼルでの取材を重ね、2016年に業界最年少で腕時計専門誌編集長に。2019年には『HODINKEE Japan』編集長に就任し、2020年には『HODINKEE Magazine Japan Edition』を創刊。2023年10月にラグジュアリーメディア『Richesse』のデジタル版を創刊し、編集長を兼任する。