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 永瀬は、藤井との番勝負は「厳しい戦いになる」と気を引き締める。

「藤井さんは本当に勝負にカラい。例えば10連勝していてもまったく緩まないんです。普通はそれだけ勝っていたら多少は油断すると思うんですけどね」。

 ではどこに勝機を見出していくのか。

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「棋力向上しかない。最近わかったのは、自分は体が丈夫だということ。倒れたことがないですから。色紙にも揮毫(きごう)するんですけど、本当に『不倒』なんです(笑)。体が壊れない程度に無理を重ねて、なんとしてでも棋力を上げたい」。

©杉山拓也/文藝春秋

「藤井さんと戦い続けるステージを求めたい」

 公式戦の対戦成績は永瀬の3勝7敗。直近で永瀬は2連勝中だが、「それは好材料でも何でもありません」とそっけない。「棋聖戦は楽しみなんですよね?」と軽い調子で尋ねると、表情が少しばかり険しくなった永瀬は静かに否定した。

「楽しみではないです。まずこちらが1勝しないと話になりません。最近はタイトル戦で出だしが悪いので、早いうちに1勝したい。そうでないと藤井さんも冷や汗をかいてくれませんから。こちらが藤井さん以上の集中で盤上に向かい、力を出し尽くしてどうかという勝負です」。

 誰よりも藤井のことを知り尽くしている男だからこその覚悟だった。

 どうしても藤井の話ばかりになる。永瀬自身の話も聞こうと、「棋士として最終的に何を目標にしているのか?」と尋ねた。

「藤井さんとライバル関係であり続けることです。今は実績に差がありますけど、いい勝負をできるようになれば何かがついてくるはず。結果ではなく、藤井さんと戦い続けるステージを求めたい」。

 間髪を入れずに、きっぱりとした口調で返ってきたのは、やはり藤井に関することだった。

©杉山拓也/文藝春秋

「強敵」と書いて「とも」と読ませる少年マンガのライバル関係

 藤井聡太との初タイトル戦となった棋聖戦五番勝負は、藤井が3勝1敗で防衛を決めた。それでも永瀬は大きな爪痕を残している。圧巻だったのは開幕戦だ。2回も千日手になり、3局目で永瀬は序盤で用意の手を放った。藤井に難解な3択を突きつけ、結果的にミスを誘ったのだ。藤井は珍しく粘りを欠いて押し込まれた。1日に3局も指して、「(永瀬の)体力勝ち」との評判もあった。

 敗れた永瀬だが、シリーズ中は休止していた藤井との練習将棋を再開し、いまも熱心に指している。永瀬にとって、藤井は倒すべき相手でありながら最も深く尊敬している棋士であることには変わりがない。私は以前に永瀬と藤井の関係を、「強敵」と書いて「とも」と読ませる少年マンガのライバル関係に例えたことがある。永瀬はそれを読んで、すごく喜んでくれた。とにかく藤井への思いは熱い。

「永瀬さんから見て、いちばん序盤戦に詳しいと思う若手棋士は誰ですか?」という質問を2023年2月にした際には、次のような言葉が返ってきた。