帰国時にはミニスカートでタラップを降りてきて注目を集めた。なんでも、彼女が日本人のミニスカート着用第1号らしい。
いずれにしても、私とは正反対だ。こっちは、お金を稼ぐためにニューフェイス試験を受けて、なんとか合格し、必死に役者稼業を続けてきた。ところが、彼女は世に言うところの典型的な才女であり、「お嬢様女優」である。はっきり言って、私とは水と油だ。
ところが、『キイハンター』の撮影が始まると、印象は一変した。とにかく役者としての勘がいい。
“日本人ミニスカート第1号だった”野際陽子
ちょっとした動きにセンスがあるし、話し方も洗練されている。しかも、アドリブにも臨機応変に対応した。
たとえば、危険に遭遇し、怖がる彼女に「大丈夫だ。行こう」と私が声をかけるシーンも、陽子と私が演じると、こうなる。
「大丈夫かしら」
「さあ、お嬢さん、お手をどうぞ」
すると、彼女は
「じゃあ、お願いするわ」
と、まるで貴族のような雰囲気で、上品に手を差し出すのである。こうした粋なやりとりは『キイハンター』のウリにもなった。アクションの醍醐味に加え、フランス映画を思わせるエスプリやユーモアが織り込まれたのである。視聴率がどんどん上昇し、長寿番組となったのも当然だった。
プライベートでも楽しい女性だった。
とにかく酒が強い。一人でワイン1本空けるくらいは当たり前だったし、私の2倍、3倍飲んでも酔わなかった。一緒に飲んで、こっちがベロベロに酔っ払ってしまうと、
「あなたはあまりお酒が強くないんだから、量とペースを考えながら飲まないとダメよ」
と、彼女にたしなめられたものだ。
彼女の酒は実に陽気である。平気で下ネタを口にするのだが、いやらしさを感じさせないし、愚痴を言ったり、人の悪口を言ったりすることもない。取り乱して人に迷惑をかけることもないのだから、酒豪としての格は高い。
私が深夜、新宿で飲んでいることを知ると、タクシーを飛ばしてやって来て、朝まで一緒に飲み明かすこともあった。つまり、それくらい一緒にいて飽きないのである。
しかし、私自身は結婚を、それほど意識していなかった。積極的だったのは彼女のほうだ。飲んでいても、いつの間にか私の手を触っている。理由を聞くと、
「だって、あなたがカッコいいんだもん」
そんな調子で、私のほうが終始、押されっ放しだったが、結婚は自然な流れだったし、私は最良の伴侶に出会えたと思った。
それにしても、第一印象というのは当てにならない。