――「集団病理」というと、いじめ問題も含まれますね。
益田 ナチスドイツとか、旧日本軍もそうですね。
――集団に流されそうになったら、自身でも戒めるべきなんですね。
益田 しかしやっぱり自分だけだと難しいので、リーダーになる人を戒めるとか。あとは、そういう「集団病理」があるということをみんなが知ることで、社会全体で監視するとか。
――リーダーが「集団病理」を理解してくれれば理想的ですが、果たしてそれを自ら認めて戒められるでしょうか。
益田 人類というのは、知識や経験を溜め込んで今に至っているので、「集団病理」という認識を含めて知識がさらに溜まっていけば、新しい概念を発明するんじゃないでしょうか。
あまりにもメンタルヘルスに関心がないリーダーたち
――日本のリーダー、岸田首相についてはどう思いますか。
益田 彼を個人的に知ってる訳じゃないので、なんとも言えないですね。具体的に自民党という組織がどうなのかというと、もちろん清濁併せ呑むところもあるだろうし。組織というものは、一人ではどうにもならないところも多くありますから、わからないですね。一人の人間にはいいところもあれば悪いところもあるだろうし。
――悪い部分は、修正していったほうがいいですよね。
益田 個人を直していくのか、モラルとか組織全体を直していくのか。いろいろ方法はありますが……ただし問題があれば、それを隠蔽するのではなくて、解決に向かっていくアクションを起こしたほうがいいですよね。
――精神科医がリーダー向けに講演をするという機会はあるんでしょうか。あったらすごくいいと思うんですが。
益田 少なくとも僕はやったことはないですね。まず、リーダーという立場の人たちが、あまりにもメンタルヘルスに関心がないんですね。社会的弱者に対する無関心さがすごく目立つんです。「強い人が強い人に認められることだけに興味がある」みたいな社会になってしまっている。それはとても不健全だし、断絶を生むし、格差が広がり続けてしまうし、いいことがないんです。
お金持ちがもっとお金持ちになりたい、名誉ある人がもっと名誉が欲しい、と競い合うんじゃなくて、お金が十分あるならもっと貧しい人のことを考えなさいよ、ということなんですが……あまりにもそういう要素が弱すぎる。まあ日本だけじゃなくて、世界的にそうですけれど。
――やはり先生が直に接するのは「弱者」なんですね。
益田 医者ですから、そうなりますね。だから医者は医者としての仕事を、政治家は政治家としての仕事を全うすればいいと思うし、職業的に相反するところはどうしてもあります。立場として、それはそれでいいんじゃないかと思いますが、誰もが弱者への理解はあってしかるべきだと考えます。(#3へ続く)