「三つのA」は不幸を呼び寄せる
しかし、それは大きな勘違いです。会社側や人事は、採用活動を通じて転職者の経歴や能力・資質をある程度把握していますが、それらは表面的、断片的な情報にすぎません。ましてや新たな職場の人たちは転職者の過去の実績をほとんど知りませんし、本人の前職での仕事ぶりや成果を見たこともありません。
だから、転職者は実績をゼロから一つひとつ重ねて、周囲の信頼を獲得していく必要があるわけですが、そこをわかっていない人がしばしば見られます。
最も不幸なパターンは、「三つのA」を不用意に口にしてしまうことです。前職での経験を「あのときは」「あの会社では」「あの人たちは」というふうに話すと、過去をひけらかしているように聞こえ、職場の人たちを嫌な気持ちにさせてしまいます。能力は高いのに、この三つのAという落とし穴にハマって、転職先になかなか馴染めない人を私は何人か目にしてきました。
転職先企業で継承されてきた制度や習慣の意味を理解する
(2)転職者は新たな職場のことを知らない
転職者本人も新たな職場のことをよく知りません。
私自身も転職するにあたっては、できる範囲でいろいろとその会社のことを調べましたが、すべてを知り尽くして入社したわけではありません。実際に働き始めてから、その会社の制度や習慣を知り、「なぜ?」「どうして?」と戸惑いや違和感をおぼえることもありました。
けれども、企業にはそれぞれ歩んできた道のりがあり、継承されてきたことには継承されるだけの意味が必ずあるものです。だから、転職者は初めて知った制度や習慣にすぐには共感できなくても、それが継承されてきた意味を自分で考えるべきでしょう。戸惑いや違和感を口に出して言うのは簡単ですが、そういう態度をとってばかりいたのでは、新たな仲間たちとの信頼関係が築けませんし、「この会社で周囲のメンバーとともに働く気がないのか」と疑われてしまいます。
転職先企業で継承されてきた制度や習慣の意味を理解するにあたっては、「自分の軸」を持つことも大切です。周囲の人たちの振る舞い方を「変だ」とか「おかしい」などと決めつけずに、「どうしてそういうことをしているのか」というふうに客観視するために必要なのが自分の軸です。