男児誘拐殺人事件を、事実無根の因縁話に仕立て上げ…
マニュアルの最後は【吉展ちゃん事件】トーク。1963年に発生した男児誘拐殺人事件を、事実無根の因縁話に仕立て上げている。
――殺された4歳の吉展ちゃんと犯人の小原保は無関係だと言われていたが、朝日新聞の記者が調べたところ過去帳が出てきて、実は七代前の先祖に因縁があるとわかった。
どちらも福島県の同じ村に住んでいて、両家の間を流れる川の水引き争いをしていた。吉展ちゃんの先祖は負けて怨み、小原の家の4歳の男の子を井戸に落として殺した。七代のちに反対のことが起こったのが、吉展ちゃん事件だ。これを因縁果報と言い、誰の家系にも起こる――。
遺族を冒涜してやまないこのマニュアルを作ったのは、東京の有限会社「新世」の代表取締役を務めていたTという人物。新世も摘発を受け、Tらは逮捕された。検察官は法廷で、
「実際に子どもが殺された事件を印鑑販売のトークに使うことに、罪悪感というのはなかったのですか」
とTを咎めている。新世が統一教会本部と同じ渋谷にあったことから、警視庁は本部の家宅捜索を検討した。ところが、警察庁出身の与党政治家からストップがかかったと言われる。
民事裁判では、統一教会の組織的な違法行為を認める判決が何度も出ていたが、刑事での認定は、この事件が初となった。しかも東京地裁の下した有罪判決は、特商法違反では前例がないほど重かった。判決文は、こう断じている。
〈被告会社は、(略)役員も販売員ら従業員も全員が世界基督教統一神霊協会の信者であるところ、(略)設立当初から長年にわたり、このような印鑑販売の手法が、信仰と混然一体となっているマニュアルや講義によって多数の販売員に周知され、販売員らはこのような販売手法が信仰にかなったものと信じて強固な意思で実践していた〉
〈統一教会の信者を増やすことをも目的として違法な手段を伴う印鑑販売を行っていたものであって、本件各犯行は相当高度な組織性が認められる継続的犯行の一環であり、この点からも犯情は極めて悪い〉
和歌山県警は、印鑑販売の株式会社「エム・ワン」を摘発すると同時に、統一教会の和歌山教会へ家宅捜索に入った。時間差を与えなかったために証拠の散逸を防ぐことができ、教会のパソコンの中からエム・ワンの販売実績や達成率のデータが見つかった。エム・ワンの役員が、販売員の手数料について教会に報告していることもわかった。霊感商法と教会運営が渾然一体になっている実態が、ここでも裏付けられた。
統一教会は長年「物品販売は信者が勝手にやっていること」「販売代金が教会に入金されることはない」と強弁してきたが、詭弁に過ぎないことが明らかになった。今回の小誌の問い合わせに対しても、「当法人は収益事業を一切行っておらず、過去においても現在においても『霊感商法』を行ったことはありません。ご指摘の『印鑑販売のトークマニュアル』については、当法人は使用したことはありません。会員に対しては、活動する際は法令遵守を徹底するよう当法人は指導しています」と従来通りの回答を寄せた。