ギャルにとっての「安室奈美恵と浜崎あゆみ」
超絶な歌とダンスのスペックで尊敬と憧れを集めた安室奈美恵の存在が「respect(尊敬)」だったとすると、浜崎あゆみは「sympathy(共感)」。ギャルたちにとって「ayu」は、もうひとりの自分。そして「A Song for xx」の「xx」という特殊な部分に、その寂しさと本音を伝えたい人の名前を入れて、想いを馳せたのかもしれない。
2000年代前半、彼女を追ったドキュメンタリー番組があり、女子高生風の声で、こんな内容のナレーションがあり、今でも強烈に覚えている。
「ねえ、お父さん、あゆの歌を聴いたことがある? あゆの歌だけが、私たちに出口をくれるの」
今回のロングインタビューでは、苦悩や葛藤もしっかり語られていた。
凄まじい人気と注目を集め、「ayu」という存在がモンスター化していったこと、そして2013年に突然活動拠点をアメリカに変えたことについて、「逃げた」と後悔の涙を流した。
「アメリカに逃げたっていう感じですね。それで自由になれたって勘違いしてた。都合のいいように、自由になれたって言い聞かせてた」
その話は8年前、2015年に放送された「SONGS」でのインタビューでも語られていて、彼女はやはり言葉に詰まり涙を流していた。何年経っても、きっと彼女はこの話をするとき、感情が溢れるのだろうと感じ、ずっとぬぐえない、ものすごいものを背負っている気がした。
「私の本当のことなんて誰も知らない」
だからこそ、avex代表取締役会長・松浦勝人氏のYouTubeチャンネルに出て昔話をしたり、自伝的小説『M』で過去をあけすけに披露したりするのは、なぜそこまでするのか、彼女にとって、それは心地いい作業なのだろうかと正直に言って不思議になる。
番組では、浜崎あゆみの大ファンという社会学者の古市憲寿氏が、小説『M』と喪服姿のPVが話題になった「SEASONS」について取り上げ、「もしかしたら誰か親しい人が亡くなったのかなとか、いろんな想像をしたわけですけど、ただの失恋だったんだ」と語った直後、画面が切り替わり、彼女が静かに言ったのがこの言葉。
「なんでもそうですけど、私の本当のことなんて誰も知らないから、思いたいように思ってもらえてれば」
もうその通りなのだが、大切な過去をエンタメとして提供してくれなくとも、ファンは十分満足しているのではないだろうか。