悪いのは浮気そのものではなく、バレてしまうこと
聞くけれど、あなたは浮気をしたことはないの?
「私ですか、もちろん、ないです」
本当に?
「もし、あくまで、もし、の話ですけど、浮気したとしても、絶対にバレないようにします。たとえバレたとしても絶対に認めません。嘘をつくなら最後までつき通さなきゃ」
それが彼女の言う筋の通し方らしい。つまり、悪いのは浮気そのものではなく、バレてしまうこと。ならば、彼女と夫は似た者同士とも言える。
そうそう、どうして剥離骨折するほど電信柱を蹴ったのかを聞きそびれていた。
「実は旦那がまた浮気したんです。地元のキャバ嬢に手を出して」
ああ、そういうこと。
「週に何度も同伴とアフターするわ、その上朝帰りとなれば、気付きますよね。領収書からキャバクラ特定して、奴が遊んでいるときに乗り込みました。やっぱり土下座で謝られて。帰り路、なんでこいつ、こんなことを繰り返すんだろうって思ったらイライラしてきて、思わず電信柱を……。まったく懲りずに浮気する旦那には呆れるしかありません。だから、もちろんペナルティは課します。今回は1か月、毎日夕食を作って下の子たちと一緒に食べる(笑)。毎日だと外出できませんから」
別れる選択は微塵もない
そのペナルティは軽いようにも感じるけれど。
「1番下の子は、10歳ですが、それでもあと8年もすれば成人ですよね。その子が独立したら、私は心の中にぽっかりと穴があいちゃうんじゃないかなって思うんです。まぁ、そうなったらそうなったで、旦那ともう一度、2人だけの生活を楽しむつもりです。また浮気されたら、いやだけど」
彼女の中に、別れる選択は微塵もないらしい。
「女にはだらしないけど、それ以外はとっても優しくて楽しい人なんです。子供もすごく大切にしてくれます。私、家族が本当に大切なんです。特に子供たち、あの子たちが私を真人間にしてくれました。上の2人は大学卒業して、今は建設会社に勤めています。まずは他の会社で修業して、時期がきたら旦那の会社に入るって約束してくれていて、こんなにありがたいことはありません。長男は結婚もしましたし、一安心です。下の2人は女の子だから、旦那が溺愛しています。思いがけなく4人も産むことができて、本当に幸せです」
彼女の恋の話を聞くつもりが、夫へのたゆまぬ愛を聞かされる羽目になった。
これがヤンキー魂というものだろうか。