池田エライザの演技に、真保裕一が涙ぐんだ!?
真保 そして池田エライザさんも、娘を奪われた母親の役を見事に演じ切っておられた。あやうく泣きそうになったことを池田さんに伝えたら、「泣いてくださいよ」と言われました。隣に水田監督もいたし、絶対に泣きたくないな、と思っていたんです。
水田 遠慮せずに泣いてくださったらよかったのに。
真保 ネタバレになるから、どことは言えないですが、あるベテランの方がワンシーンで見せる輝きも素晴らしかった。あの表情は……!
水田 ネタバレにならないところでいうと、平泉成さんの場面です。ベテラン俳優たちの辞書には、「やっつけ仕事」という文字はない。スイカを勧める場面を見逃さないでいただきたい。
石塚 原作小説と映画には違う部分もあるのですが、このことについても、真保さんはご理解をいただきました。
真保 映画化の打ち合わせの最初に、「映画と小説は違う表現物である。我々にもやりたい部分がある」ということを言われました。それは理解できました。ただ、私がかかわった映画で、ミステリーとして成立していない映画もありましたから、ミステリーの部分だけは壊さないでほしい、ということを申し上げました。最終的には、映画は監督のものですから、お任せしました。
水田 私たちの意図は、家族が誘拐されて「被害者」となった政治家一家が、実は社会的には「加害者」でもあった側面を、描きたいと思ったんです。宇田家が「加害者」であることを明確にするためには、犯人たちのドラマが必要でした。そのために、原作の構造を壊さない範囲で、そこを創作させていただいた。その過程で真保さんに、矛盾点や弱点をたくさん指摘してもらいましたね。
真保 うるさい原作者のことが嫌にならなかったですか?
水田 良いシナリオがなければ、良い映画が撮れるわけがありません。このブラッシュアップは、ギリギリまでやるべきなんです。
真保 とことんお付き合いくださってありがとうございました。映画が完成したあとに、水田監督と、こんな和やかに話せるなんて。素晴らしい映画が完成して嬉しいですね。今作は、一瞬も見逃せないスピード感のあるサスペンス映画です。映画館の座席で、安心して身をゆだねて、楽しんでもらえたら、と思います。
写真=山元茂樹/文藝春秋