中島健人と堤真一が初共演で親子役に!
石塚 堤真一さんが演じる代議士・宇田清治郎、中島健人さん演じる宇田晄司。誘拐された孫の母親を演じる池田エライザさん。そして刑事役の山崎育三郎さん。寺中初美を演じた尾野真千子さん。いずれも魅力的でした。小説で、キャラクターをつくるときは、どんなことに気を付けるんですか?
真保 小説を書くときは、作品内に書かない部分も含めて、登場人物の人生を考えます。もちろん年表も作ります。小説における宇田晄司は、当初は、政治の世界にもおらず、興味もなかったんです。父親が政治の世界でどれだけ汚いことをやっていても、「自分は関係ない」と考えていた。ところが、姪っ子が誘拐されたことで、家族の命を守るために、変わっていく。総理をはじめとした国家権力と、孫を救うこと、二つの難題に板挟みになるんです。刑事の平尾も、警察と国家権力の狭間で苦しみながら戦っていく。
石塚 映画をご覧になって、キャストについては、真保さんはどう感じられましたか?
真保 関係者が初めて見る「初号試写」のときに、隣の席でご一緒した水田監督に「役者さんのみなさんの演技がすごいですね」と、絶賛したことを覚えています。自身の小説を映像化していただいた中では、一番、良かったと感じました。でも、監督は少しムッとされていたようで……。帰りの道すがら、「『俳優の演技を引き出したのは、俺だぞ』、と怒っていたのかな」と反省しました。
水田 ははは。違いますよ。あのときは、真保さんが、「少しテンポが速いですね」とおっしゃったので、自分なりに考えていたんですよ。
真保 そうだったんですね。感激したのは、主演の中島健人さんです。誰も見たことがない健人さんがいました。難しい役であったと思うんですが、こんなふうに演じられるんだな、と。
堤真一が認めた中島健人の魅力とは
水田 中島健人さんは、存在感がありましたね。彼は、テレビに映っているのとは違う部分を持っています。ちょっと「陰」があるんです。
真保 実際話すと、男っぽいし、芯がある方でした。だから今回の晄司のような役を望んでくださっていたのかもしれないですね。当初、石塚プロデューサーから「晄司役は、中島健人さんに打診をしたい」と聞いたときに、ラブコメに出ている印象があったので少し驚いたんです。でも、地上波のドラマ『砂の器』で、天才作曲家・和賀英良を演じておられたのをみて、この方なら大丈夫だ、と。その想像を、軽々と越えていく演技で、本当に感激しました。
水田 父親役の堤真一さんも、当初から、健人さんを認めていたんです。彼の武器は、リアルな身体の動きです。ライブステージで鍛えられているんです。さらに、中島さんの意識は「他者への視点」にある。だから、あの演技ができたんだと思います。
真保 現場でのケンティは、どんな様子でしたか?
水田 撮影は、とてつもなく暑い夏だったんです。屋外での待ち時間も長いですから、女性スタッフが、健人さんに日よけの傘を差しだすんです。自らは強い日差しのなかにいるのに、スタッフたちは皆笑顔で、とても幸せそうでね。
真保 スタッフの微笑みが、目に浮かびますね。
石塚 刑事の山崎育三郎さんと、健人さんが屋上で対面するシーンがあるんですが、このとき、健人さんは徹夜をして撮影に臨んでくれたんです。誘拐犯、さらには政治権力と対峙する中で、彼が追い詰められる場面は、鬼気迫る表情でした。自分の追い込み方は、すさまじい俳優だと思いました。