永瀬王座に感じた覚悟と気迫
――NumberWebで観戦記者・大川慎太郎さんがシリーズ中に永瀬王座に取材し、本音を引き出しています。その中で、永瀬王座はタイトル戦の移動日にも練習将棋を入れていることも多いけど、第3局が終了した直後は「明日は指さないです(笑)」「移動日は休むのもありかなという気がします」と語ったとありました。自分をギリギリまで追いつめたがゆえの「休むのもありかな」という発言だったように思います。
森内 今回の永瀬さんには、オリンピックに出るアスリートみたいな覚悟を感じましたね。
――オリンピック、ですか。
森内 4年に1度しかなく、自分にとって節目の試合に全力を尽くす。そんな気迫が今回の永瀬さんにあったと思います。一般的に棋士生活は数十年あるので長いですし、1年中たくさんの棋戦に出場するため、対局は日常です。そういう中で、一時期でも突き詰めて打ち込む感じにはなりにくいと思うんです。今回の永瀬さんは本当にすべてをかけて戦うといった思いを感じました。まあ、永瀬さんの場合はそれがずっと続くのかもしれませんが。
運よりも実力がもたらした歴史的快挙
――最後に、改めて八冠誕生の感想をお願いいたします。
森内 いやー、この時代に本当にすごいなと思いますね。将棋ソフトの発展もあって多くの人が良質の情報を知ることができる環境なので、一人勝ちは難しいかと考えていました。全タイトル制覇は、本当に素晴らしい快挙です。
――藤井竜王・名人はインタビューで「いまの結果は自分の実力以上のものが出た。できすぎです」とよく答えています。その言葉を真に受けたうえでの俗な質問で恐縮ですが、森内九段から見て、今回の八冠独占は実力と運がどれほどの割合だったと思いますか。
森内 どうなんですかね(笑)。「運」という言葉は勝った人が使うもので、負けた時に「実力が足りなかった」と発言することはあっても「運が悪かった」とはほとんどいいません。もちろん、後から振り返って「あそこで相手にうまく指されたらまずかった」という場面はあるかもしれませんけど、将棋はそういうものです。そこでうまく指せるかどうかが本当に大事なところなので。今回の歴史的快挙は、やはり本人の実力が大きいかと思います。