引きこもりが長期化しやすいのは「家族だけで解決しようとする家庭」と語るのは、長年、引きこもりなどの若者支援を続ける「認定NPO法人ニュースタート事務局」の久世芽亜里氏だ。

 なぜ引きこもりを家族だけで解決してはいけないのか? そして、本当に正しい解決法とは? 新刊『引きこもりの7割は自立できる』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全4回の1回目/#2を読む)

引きこもり問題解決のための「最終回答」とは? ©新潮社

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交通事故をきっかけに引きこもりになった31歳男性

「1浪して大学は落ちてしまって、アルバイトと運転免許を取ったりしていました。その後、調理師専門学校を卒業して、レストランに就職しました。4年くらいして交通事故を起こして、それをきっかけに仕事をやめて。それからズルズルと5年ほど引きこもりました」 

 これは、圭一くん(仮名)が講演会で語ってくれた言葉です。親がニュースタートに相談に来たのは、圭一くんが31歳の時でした。 

写真はイメージ ©getty

「親との日常会話もあまりしなくなって。後ろめたさもあって、自分が情けなくて。あと、親に言ってもしょうがないなという気持ちも。親もあまり干渉してこなかったというか。何か言ってきても自分が黙ってしまうので、向こうも何をしたらいいかという感じ」 

 親は事前の面談で、「本人の心を傷つけたらいけないと思い、何も言えなかった」と話しています。互いにあまり踏み込まないようにしていたのでしょう。それでも、たまにそれらしい会話はあったようで、「何か目的はないのか、とか聞かれるのは嫌だったですね」とも。 

 親からニュースタートに訪問を依頼したことを伝えてもらい、レンタルお兄さん(引きこもり当事者の家を訪問し、彼らに直接働きをかける男性たち。女性版の「レンタルお姉さん」もいます)による支援が始まります。圭一くんは最初の電話から出てくれて、初回の訪問でも部屋で普通に話をしてくれました。その後は寮生も一緒に連れて行き、楽しく雑談をしながら、寮の様子も伝えていきました。 

 3ヶ月の訪問ののち、圭一くんは入寮します。「親に、ニュースタートに行くか、就職に向けて頑張るかという二択を迫られて。寮にいた方が気分的には楽かな、ニュースタートに行って気持ちを切り替えた方がいいのかなと思って」と、後に入寮の理由を語ってくれています。 

 入寮後は、誠実に活動に参加し、穏やかな人柄で責任のある役割もこなしました。ハロウィンパーティーで仮装をするなど、様々なイベントも楽しんでいました。入寮からちょうど1年で、介護施設の調理の正社員の仕事に就きます。 

 ところがその仕事がかなりの長時間労働、残業代も出ず、前任者もうつ病で退職したらしく、職場の環境はあまり良くありませんでした。ニュースタートは3ヶ月仕事が安定したのを見てから卒業というルールにしているのですが、圭一くんは就職3ヶ月の時点ですでに別の仕事を考え始めていました。結局、その施設は退職。