1ページ目から読む
2/3ページ目

 そこから興味のあった介護の仕事に就くため、寮から職業訓練に3ヶ月通い、介護職員初任者研修の資格を取得します。そして1ヶ月後には、介護の仕事が決まりました。圭一くんは寮生活1年11ヶ月で、一人暮らしの部屋に引っ越して自立生活へ、ニュースタートは卒業となりました。 

 引きこもり対応では、家事など家での役割を持ってもらうことをよく勧めています。圭一くんは家で週3回の夕食を担当していました。その役割については、「今思えば家の中に役割があってそこで安定してしまった。何もしていなければ気まずさがあったでしょうね」と話してくれました。

「引きこもっていた5年間は、必要な時間でしたか?」という質問には、「最初の1年は、そうだったと思います。死にたいなあと思う時もあったので。でもズルズルと長くなると、社会に出るのがそれだけ難しくなっていく」とのことでした。 

ADVERTISEMENT

 2年目からは、役割があり、踏み込んだ会話がないことで、ただズルズルと引きこもりが続いていたのでしょう。親が家族をひらき、子どもを家庭内から外の世界に押し出したことで、圭一くんは自立できたのです。

 最後に、親への今の気持ちや当時してほしかったことを聞くと、「親と離れて良かったと思います。今から思えば、もっと早く押し出してほしかったです」と答えてくれました。 

「引きこもりは家族の問題」という世論 

 本稿では、私たちニュースタート事務局が実際の支援の中で感じてきたことや、どのように対応してきたかをお伝えします。

「家族をひらく」は、団体の理念として、ずっと掲げ続けている言葉です。

 私たちの活動の始まりは1994年、イタリアの農園に若者たちを送り、元気を取り戻してもらう「ニュースタート・プロジェクト」でした。その時にイタリアのホストファミリーだった宮川秀之・マリーザ夫妻が関わっていたのが、イタリアの「家族をひらく運動」です。彼らは「子どもを育てるのに2人の親では足りない」と当たり前のように言いました。だから家族をひらき、みんなで子育てをするのです。 

 私たちは漠然といい言葉だと思いながら、初めてのシンポジウムのテーマを「家族をひらく」にしました。この後、文字通り「家族をひらく」必要性を、まざまざと感じていくことになります。

 当時の世論は、「引きこもりなど子どもの問題は家族の問題なので、家族で解決するものだ」というものでした。当方でも電話相談なども受け付け始めるのですが、こういった世論の中では、「子どもの引きこもりを家の外の誰かに相談するのは恥」と親は考えてしまいます。相談をしない、相談はしても夫には内緒といった状況で、実際の支援にはなかなかつながりません。