10年間、引きこもりだった38歳の男性はなぜ社会復帰できたのか? ここでは引きこもりの解決事例を紹介。認定NPO法人ニュースタート事務局として長年、引きこもり問題解決のために奮闘する二神能基氏、久世芽亜里氏による新刊『引きこもりの7割は自立できる』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全4回の3回目/#4を読む)
10年、引きこもりだった大悟くんのケース
大悟くん(仮名)は大学卒業後、首都圏で一人暮らしをしながら、派遣で6年間働いていました。ところが退職してしまい、とりあえず地方に住む親が毎月の仕送りを始めます。
一時的な援助と親は思っていたのですが、大悟くんはなかなか次の仕事に就きません。そのうちに親がアパートを訪問しても会ってくれないようになります。
子どもの様子が分からないまま、それでも「お金がないと就活もできないだろう」「仕送りをしないと食べられないのでは」と思い、仕送りを続けます。心配で親もそうするしかなかったのでしょう。
そんな仕送り生活が何と10年続き、大悟くんが38歳になった時に、親がニュースタートの講演会に参加しました。その後千葉の事務所に相談に来られ、「期限をつけて仕送りをやめましょう、親は離れて私たち第三者に任せてください」とお伝えしました。
親は「3ヶ月で仕送りをやめます、これからのことはニュースタートの人に相談しなさい」と手紙を書きます。同時にレンタルお兄さんが自己紹介の最初の手紙を出し、その後電話をしますが、大悟くんは電話に出てくれません。1回訪問もしましたが、無反応でした。
そこで「仕送りは振り込むのをやめるので、今後はニュースタートの人から受け取ってください」という手紙を、親に更に書いてもらいます。生活費を持ってレンタルお兄さんが訪問すると、大悟くんはドアを開けてくれました。
そのまま部屋に入れてもらい、初回から色々と話をしてくれました。実は誰かと話をしたかったのでしょう。最後の派遣先の雰囲気が高圧的で退職したこと、それがトラウマになって仕事探しに消極的になったそうです。
その後は週1回の電話や訪問を継続しながら、雑談をし、仕事探しの様子を聞いていきます。なかなか応募に動かないので、「親からの仕送りは終わるから、これで仕事が決まっていなければ寮に行くよ」という話もすると、実際に応募をするようになりました。
そして電話で、「この間の派遣の仕事が決まり、一昨日から行っています」という言葉を聞くことができました。支援を始めてからわずか3ヶ月半、大悟くんに初めて会った日からは3ヶ月未満でした。