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お漏らしがきっかけで最悪の事態が起きる

 常態化していた虐待は、2021年の夏、本庄市内のラーメン店でも目撃されていた。テーブル席で丹羽が歩夢くんを説教し、その様子を母の知香が無言で撮影。歩夢くんは説教が終わるまで1時間以上、料理に手をつけることができなかった。

 3度目の来店で、店主が歩夢くんから名前と保育園を聞き出し、「子供が虐待されている可能性がある」と保育園と市に通報。だが、知香は虐待を否定し、歩夢くんが救出されることはなかった。

 そして2022年1月18日。最悪の事態が起きてしまったのだ。

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 歩夢くんが家でお漏らしをしたことに激高した石井は、派遣社員として工場で働いていた知香に連絡をし、職場を早退させた。

「知香、相撲を取ったら?」

 もともとは、保育園のリクレーションで相撲に負け、悔しがっていた歩夢くんを丹羽が特訓したことがきっかけ。だが、丹羽の指導が厳しく、歩夢くんが泣き出すことも。やがてこの家で「相撲」とは、痛みと恐怖を伴う体罰を意味するようになったのだ。

 2日前の1月16日も、就寝の挨拶を言えなかった歩夢くんに石井が腹を立て、知香は歩夢くんと相撲を取らされていた。泣きながら起き上がる歩夢くんを、知香が何度も畳の床に投げ倒す。

石井は初公判で「私は一切、手を出していない」と主張

「洋樹さんも相撲を取ったら?」

 元ラガーマンの屈強な丹羽は、知香より高い位置から歩夢くんを床に叩きつける。立て続けに2度。後頭部を強打した歩夢くんの様子が急変した。

「意識がなくなっているというか、目の焦点も合っていないし、今までに聞いたことのない呻き声を上げていました。手足もダランとしていました」(知香の法廷証言より)

 119番通報されることもなく、歩夢くんは死んでいった。死因は後頭部強打による脳幹損傷。そして、あろうことか、発覚を恐れた大人たちの手によってその遺体は床下に埋められたのだ。土をかぶせる前、歩夢くんの遺体には発効促進防虫脱臭剤の粉がかけられた。

現在の事件現場。地中からは歩夢くん(当時5歳)の遺体が発見された ©文藝春秋

 初公判で石井は、検察官が以上の公訴事実を読み上げた後、こう発言している。

「一つ異議申し立てがあります。(歩夢くんの傷害致死について)私は一切、手を出していません。他の2人に(歩夢くんが)怪我をするようなことも指示していません。他のことは間違いありません」

 石井の公判ではその2人、知香と丹羽の証人尋問も行われている。