ロンドン自然史博物館主催の世界的写真コンテスト「Wildlife Photographer of the Year」で、今年写真家の大島淳之氏が日本人唯一の入賞を果たした。95カ国から約5万作品が寄せられた同コンテストは、自然写真では世界で最も権威あるものの1つだ。
その舞台は鹿児島県・屋久島。ジブリ映画『もののけ姫』のモデルとなった自然で知られるこの島で、どうして“その1枚”が撮影されることになったのか――。大島氏が緊急寄稿した。
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「Wildlife Photographer of the Year」で入賞した本作は、手前味噌ながら多方面から大きな反響が寄せられている。深い森の中、こちらに目を向ける一頭の雄鹿、その背には若い猿がしがみつき同じくこちらを見つめている――。「ロデオ」と呼ばれるこの行動が、なぜそれほどの関心を持ってもらえたのか。
自然界において、異種間の野生動物が接触するシーンというのは捕食の関係にあることが多く、同コンテストでもこれまでそうした写真が多く評価を受けてきた。一方、私の作品『Forest Rodeo』はそれらと一線を画す。博物館ディレクターのDoug Gurr氏は、授賞式の挨拶の冒頭でこの写真に言及し“Incredible Animal Behavior(驚くべき動物の行動)”と表現した。BBCやCNNをはじめ、各国のメディア、文化・教育機関がこの写真を話題にあげている。
写真の撮影地は、九州本土から南へおよそ65kmのところに位置する屋久島。世界自然遺産や、あの有名な映画『もののけ姫』のモデル地などとしても知られる場所である。そのイメージから屋久杉(樹齢千年を超える杉)の巨木や苔むす森を思い浮かべる人も多いと思うが、それらはこの島の一面に過ぎない。
屋久島は“日本列島を詰め込んだような”場所
屋久島は直径30kmに満たない円形状の島で、立体的に見ると海岸部と山頂部の間にはおよそ2,000mの標高差がある。実は島で最も高い宮之浦岳(1,936m)は九州の最高峰にあたり、2番目以降も島の山々が上位を占めている。
年間通して温暖な海岸・平地部に対し、山頂付近の平均気温は札幌と変わらないと言われ(標高が100m上がるごとに約0.5度ほど気温が下がる)、小さな島でありながら、日本列島を縦断したように多様な気候・天候・植生が詰め込まれている。
この島の大型動物は、ヤクシマザル(ヤクザル)とヤクシカ、そして人間の3種のみ(※近年島外から持ち込まれたタヌキが一部で確認されている)で、「ヒト2万、サル2万、シカ2万」などと言われるほど、猿と鹿が多く生息している。