富山県、黒部川上流の山岳地帯に位置する発電専用ダム「黒部ダム」。貯水量は2億立方メートル、堤体の高さは国内のダムでは最も高い186メートルに達する。これは、富山県内で最も高い構造物でもある。
規模の大きさ、迫力もさることながら、困難を極めたダム建設時のエピソードも注目され、映画「黒部の太陽」をはじめとした映像作品や、小説等の題材となることも少なくない。
秘境に築かれた黒部ダムは、現地へ向かう道中から絶景が続く。扇沢(長野)~黒部ダム~立山(富山)を結ぶ「立山黒部アルペンルート」は、世界有数の山岳観光ルートとしての評判も高い。そんな黒部ダムを訪れる交通路に、2024年6月から新たなルートが加わる。立山よりも北にある宇奈月温泉から黒部ダムに至るルートで、その名も「黒部宇奈月キャニオンルート」という。
工事用ルートとして使われている場所を体感しながら、黒部峡谷の奥地の自然と日本の建設史に残る電源開発の軌跡を肌で感じられるという触れ込みの黒部宇奈月キャニオンルート。いったいどんな光景が広がっているのか。一般公開に先がけて、一足先に体験できる機会を得られたので、今回はそのもようを紹介していく。
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激しい揺れ、通常の鉄道ではありえない急カーブ
黒部宇奈月キャニオンルートには複数の発着地点が設定されているが、今回のスタート地点は黒部峡谷鉄道の欅平(けやきだいら)駅だ。富山市街地から富山地方鉄道に乗車して現地へ向かう。
停車する各駅のレトロさに、思わずため息が漏れる。早朝スタートだったこともあり、列車内でウトウトしようと思っていたが、景色や駅を観察するのに忙しく、全くそんな暇を与えてくれない。
宇奈月駅からは黒部峡谷鉄道に乗り換える。黒部峡谷鉄道は線路幅が小さいナローゲージと呼ばれる特殊な鉄道で、旅客が乗れるものは日本に3か所しか存在しない。
もともとは黒部川水系の電源開発に伴う資材運搬用に造られた鉄道で、後に観光用に開放された。現在も関西電力をはじめとする発電所従事者や工事関係者の通勤、資材の搬送等にも利用されている。
観光客が乗る客車の後ろに資材運搬用の貨車が連結されている光景に、古き良き時代の貨客混合列車の面影が見える。今日の日本ではまず見られなくなった鉄道の原風景だ。
ナローゲージに揺られること1時間強。この時間が、また楽しい。ナローゲージ特有の激しい揺れや、通常の鉄道ではありえない急カーブが体験できる。また、黒部川に沿って走っていくため、沿線の景色も素晴らしい。発電所や名所などを知らせてくれるアナウンス放送の声は室井滋さんだ。
そうして欅平駅に到着。いよいよ黒部宇奈月キャニオンルートがスタートする。