山の中を垂直に上る巨大「竪坑エレベーター」
欅平駅に到着すると、観光客や登山客に混ざって、作業員の姿が目立ち始める。業務用に敷設された鉄道であることを示す光景に、思わず期待が膨らむ。
ホーム上で、金属探知機によるボディチェックと手荷物検査が行われ、専用のトロッコ列車に乗り込む。ここから先は関西電力専用の鉄道となっており、普段は一般人が乗車することはできない。
欅平駅までは10両以上の客車を重連(2両連結)の機関車が牽引していたが、専用線内は3両の客車を年季の入った凸型機関車が牽引する。欅平駅を出発するとすぐにトンネルに入った。トンネルというか、この先のルートはほぼ全てが地下となる。地形が急峻で、かつ冬は豪雪地帯となるため、必然的に地下を通ることになったのだ。
走り始めて1分ほどでスイッチバックし、列車が反対方向に動き出した。そしてまた1分ほど走って終点。地下の坑内でレールの上を歩き、巨大なエレベーターに乗るのだが、これが凄い。山の中を、垂直に200メートルも上がるのだ。
エレベーターが巨大なのにも理由があった。エレベーター内にはレールが敷かれており、客車や貨車を、そのまま載せることができるのだ。先ほどトロッコがスイッチバックしたのは、エレベーターに客車や貨車を載せるためだったと知る。
エレベーターに載るのは、客車や貨車1両だけで、機関車は載らない。そのため、機関車が先頭にあっては都合が悪く、あえてスイッチバックする構造にしたのだ。ツアーでは人だけの乗車となるが、エレベーターに貨車が載っている姿も見てみたいものだ。
私が知る限りでは、日本で竪坑エレベーターに一般人が乗車できるのは、北海道にある幌延(ほろのべ)深地層研究センターだけだ。黒部宇奈月キャニオンルートがスタートすれば、日本で2例目となる一般人が乗車可能な竪坑エレベーターになる。鉄道車両が積載できる竪坑エレベーターとしては、国内唯一ではないだろうか。
エレベーター乗車中は、残念ながら外の様子は全くうかがい知れず、音も静かだ。しかし、現在地を示すメーターが上がるとともに、着実に終点に近づいていることがわかり、私の期待も高まっていく。
竪坑エレベーターを降りると、もう一度鉄道に乗りかえる。関西電力上部専用軌道という路線となり、欅平駅から乗った客車よりも、さらにひと回り小さい。車内も手狭で、隣の人と配慮しながら座る。牽引する機関車も電気機関車ではなく、蓄電池式の機関車「バッテリーロコ」だ。