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 ちなみに、私が定宿にしているコテージのある安房集落までは、西部林道からおよそ1時間。毎晩コテージへ戻ってからは、その日撮影したデータの取り込み、バックアップ、機材類の充電などを行った後、食事、シャワー、歯磨き。束の間の人間活動を経て就寝。夜明け前からは再びサルの世界へ。

 私がこれほどヤクザルの撮影に夢中になる理由のひとつに、猿という生物の表情や動きの豊かさが挙げられる。霊長類で人間に近いこともあり、他の野生動物とは比べ物にならない。

 以前、撮影データを見返していた時、何の気なしに撮った1枚の写真が目にとまった。

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「雨上がりの猿たち」 (嵐山にて) ©️大島淳之

 雨上がりの嵐山で戯れる二頭の猿。一頭は、折れた木の枝をくわえながら飛び跳ね、もう一頭は、石のようなものを口に咥え二本足で先の猿を追う――。

 なんとも言えぬ滑稽さは国宝絵巻『鳥獣人物戯画』を思い起こさせた。それ以来、私は猿(動物)の日常に潜む知られざる姿を意識するようになり、それを作品化することに心血を注いでいる。「鳥獣猿戯画(ちょうじゅうえんぎが)」とでも言ったところか。以下の写真は作品の一例である。

「鳥獣猿戯画」その1 “小猿猴蔓図” ©️大島淳之
「鳥獣猿戯画」その2 “水中ポートレート” ©️大島淳之
「鳥獣猿戯画」その3 “冬ニモマケズ” ©️大島淳之
「鳥獣猿戯画」その4 “聖地巡礼” ©️大島淳之

“知られざる姿”というのはそう頻繁に拝めるものではなく忍耐を強いられる。屋久島では、そうした瞬間の到来に意識を向けながらも、壮大な自然環境の中で“屋久島らしい写真”を撮ることに邁進した。

屋久島のクワズイモの葉の前を歩くヤクザル ©️大島淳之
巨石上のヤクザル ©️大島淳之

島に生息するもう一種の大型動物と鉢合わせ…いよいよその時が訪れる

 もうひとつ、屋久島での撮影で私が楽しみにしているのがヤクシカの存在だ。

西部林道のヤクシカ ©️大島淳之

 森の中で暮らすヤクザルとヤクシカの生息域にはところどころ重なりが見られ、鹿のまわりで猿の群れがくつろいでいたり、木にのぼって食事する猿のおこぼれを狙って下に鹿がやってくるような光景を日常的に目にすることができる。

道路上でくつろぐヤクザルとヤクシカ ©️大島淳之
木の葉を食べるヤクザルとおこぼれを狙うヤクシカ ©️大島淳之

 しかし、この時はなぜかヤクシカを見かけることがほとんどなく、1週間の滞在でまともに会えたのは10頭未満、唯一目にしたヤクザルとの接触が、冒頭で紹介した“ロデオ”だった。