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その光景と遭遇したのは島を去る前日の夕方、薄暗い森の中で一頭の雄鹿と鉢合わせたのが始まりだった。雄鹿もこちらに気づいていたが動揺する様子はなく、足もとに生えたきのこを食べ始めた。
しばらくして鹿の背後で素早く動くものが視界に入った。視線がそこに追いついた時、目に飛び込んできたのは、私の追い求めている「鳥獣猿戯画」の世界だった。
とめどなく沸き起こる感情をどうにか落ち着かせ、対峙する動物たちに警戒心を抱かせぬよう細心の注意を払いながら、ゆっくりカメラを構える。シャッターを切りながら経験したことのない感覚が全身を包んだ。ヤクシカとヤクザル、それに私だけが存在する不思議な世界……。短いようで長く、長いようで短い奇妙なひとときだった。
幻想に引けを取らない動物たちの日常
翌日、早朝の西部林道でヤクザルとヤクシカに別れを告げ、前日の忘れがたい出来事に思いを馳せながら屋久島を離れた。
後日知ったことだが、実は鳥獣人物戯画の中にも猿が鹿に乗る描写があるらしい。動物たちの日常には、ときに幻想に勝るとも劣らない姿が隠されている。一度その世界にふれる喜びを味わうと、私たちはもうあとへは引き返せない。
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