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 実家は勘当同然の状態。シェルターに入ることも勧められたが、スマホを手放したくない知香は、その選択肢を除外した。そこで頼ったのが、歩夢くんの保育園の数少ないママ友で、同じくシングルマザーのX子さんだった。知香は事情を説明し、歩夢くんを連れて、しばらく彼女のアパートに身を寄せることになる。その近隣に住んでいたのが、石井と丹羽だったのだ。

弱みにつけこみ、言葉巧みにたぶらかし…

「石井さんはX子さんと仲が良く、保育園のお迎えに来る時、一緒に車に乗っている姿を見かけたことがありました。紹介された時は『ニワアオイ』と名乗っていました。話し方が上品で、優しそうな感じがしました。元保育士で、東京の渋谷にある実家は、カラオケルームもある豪邸だと聞きました。X子さんと同居を始めて1週間後、石井さんからバーベキューに誘われて、そこで丹羽さんとも知り合いました。2人は夫婦だと思っていました」(知香)

 ただ、X子さん宅に一時避難的な居候を始めて以降、知香は自立しようとする気配を見せなかった。やがてX子さんとの間に隙間風が吹き始める。そこに付け入ったのが石井だった。

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「石井さんと話している中で、X子さんが歩夢の悪口を言っていると聞かされました。私の前で彼女に電話をかけ、スピーカーフォンにして会話を聞かせたりして、『X子さんのことは信じるな』と」(知香)

 うろたえる知香に石井はこう持ち掛けた。

「部屋があまっているし、うちに来たらいい」

 こうして知香と歩夢くんは、石井と丹羽の暮らす木造二階建ての古びた借家で、奇妙な同居生活を始めたのだった。2021年1月のことだ。

石井陽子被告

誓約書「洋樹さんとあおちゃんちに住まわせてもらうにあたって」

「一緒に住む少し前、石井さんから『あなたはお金の管理ができないんだから、私がしてあげる。X子さんも私に任せている』と言われ、給料が振り込まれるキャッシュカードと子ども手当が入るゆうちょ銀行の通帳を預けました」(知香)

 石井と丹羽は、「洋樹さんとあおちゃんちに住まわせてもらうにあたって」と題した「誓約書」を知香に書かせた。文章は丹羽が採点し、何度も書き直しをさせた。内容は、派遣社員として工場で働く知香の月収14万円から生活費5万円と食費2万円を納めること、歩夢くんを午後9時に就寝させること等。

丹羽洋樹被告

「丹羽さんに言われて、約束を破ったら『坊主にする』ことも書きました。将来、歩夢とアパートを借りて暮らすために、貯金目標を200万円から300万円にすることも書きました。カードや通帳を預かっている石井さんが貯めてくれると。必要なお金は石井さんからもらうようにしていました。最初の方は、今これくらい貯まっているよ、と教えてくれましたが、『投資に回した』と言われて以降は、何も聞かされなくなりました」(知香)

 逮捕時、知香の口座にはほとんど金が残っていなかったという。

 一方、歩夢くんへの虐待行為は、同居を開始した2021年1月からさっそく始まっていた。