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「うちらは基本、警察と絡めないじゃん? 別に「友達と待ち合わせです」って言えばいいけど、向こうだって、うちらが何してるかは分かってるわけだし。その場で変なやつを追っ払ってくれることはあるけど、ちゃんと捜査しようとはしないよ」

 そう言って彼女が向けた指の先には、防犯カメラがあった。「あれ見りゃいいじゃん。そうしたら、さっきのも、どっちが正しいか分かるのに」

 売春のために客を待つということ自体が法に触れる。彼女たちにとってはそれが弱みとなり、危ない目に遭うことも多い。

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いきなり触られたり、金を奪われたり

 2年前から歌舞伎町に立つアン(30歳)も、さんざん嫌な思いをしてきた。立っているだけで110番されたり、汚い言葉を投げかけられたりするのはしょっちゅうだ。「先月もあったんですよ」と切り出したのは、強制わいせつ事件にもなりえる話だった。

「結構いい年ですよ。50代くらいにも見えるし、おじいちゃんにも見えるような」。その男性は近づいてくるなり、服の中に手を入れてきたという。彼女はびっくりして一瞬固まった。次の瞬間、「何してんですか。やめてください」と声を上げた。通りかかった人がすぐに110番通報をし、近くを見回っていた警官が数分で駆けつけた。だが、その時には男性は姿を消していた。

 成り行き上、アンは自分がされたことを警官に説明したが、そうなると、彼女自身がなぜそこにいたかが問題になりかねない。警官も事情を察していたようだ。「まあ気をつけて」と言われて終わった。

「時々ありますよ。いきなり体を触られそうになって、私が少しでも手を払ったり肩を押したりすると、「暴行だ」「慰謝料を出せ」と言ってくる人もいる。うちらには何をしてもいいと思っているのかな」

 坂本さん(NPO法人「レスキュー・ハブ」代表)の相談室によく顔を出すエナは言う。

「いざとなったら、坂本さんのところに駆け込もうって思えるからすごくいいよ。でも毎晩開いてるわけじゃないからね。基本は自分たちで何とかするよ。おかしいやつなんていくらでもいるし、自分の身は自分で守らないといけないからさ」

 ある種の覚悟の表れだと思うが、彼女の言葉には、どこかで「何とかなる」「自分は大丈夫」という感覚も含まれてはいないだろうか。路上に立ち続ける女性たちには、少なからずこうした感覚が見え隠れする。

 承諾なしの撮影、痴漢、暴力行為……。路上には人の目もあるが、風俗店と違い管理者のいない路上売春では、客から危険な目に遭わされることも多い。

 アンはホテルに行くと思ってついて行った客に、自宅に連れ込まれたことが何度かある。「え、無理です」と断れればよかったが、腕を引っ張られ、抵抗できなかったという。室内ではかなり乱暴に振る舞われ、事前に合意した金額は受け取ったものの、「本当に怖かった」と振り返る。